第十一話 舞踏会ー優しい青年ー

 少しの間、沈黙が二人の間を流れ、不安を感じたマクウェル夫人が間に入ろうとしたが、そのときリチャードが自ら口を開いた。


「……あの、よろしければ次の曲、踊って頂けますか?」


「ええ、もちろん。喜んで」

 ディアナがふわりと微笑んで差し出された手に自信の手をかけるとリチャードは安心したようだった。


 曲が始まり、踊り始めると多くのペアは思い思いの会話を楽しむ。だが、ディアナたちはなかなか会話が続かない。眉間にしわを寄せかけた表情でディアナがリチャードの顔を覗き込んだ。


「もしかして、お嫌なのを無理して誘ってくださったんですか?」

 するとリチャードは驚いたように目を瞬かせる。

「何故、そう思われるのですか?そのようなことはありませんよ」

「本当ですか?」

 なおも尋ねてくるディアナに大きく頷くと彼女は、ダリアのような満面の笑みを浮かべた。


「よかった。さっきからあちこち、よそばっかり向いてあまり、話してくださらないから、嫌われてしまったのかと怖くなってしまっていましたよ」

 小首をかしげてターンをしながら話すディアナに慌ててリチャードが応える。


「すみません。実は舞踏会にはいつもあまり参加していないもので、どのような会話をすれば良いものか、と考えてしまっていました」

「まあ、そうでしたか、お気遣い感謝致します。どんなお話でも構いませんよ。あまり難しいことはお相手できないかも知れませんけれど」


 その言葉に安心したのか、リチャードとの会話は少しずづつだが進み始め、曲が終わる頃には静かにだけれども、笑い声が聞こえるようにまでなった。


「この後、よければ軽食にお連れしてもよろしいですか?」

 名残惜しさに軽食に誘うとディアナに否やはなく、軽食の置かれた部屋へと移動して行った。

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