挿話参拾陸/戦いの後、そして繰り返される歴史

燿炎ようえん達が露衣土ろいどを倒して露衣土城を攻め落とすと、しょうの国で展開していた露衣土軍の本隊も難無く討伐軍の軍門に下る事になる。


皇帝を失った露衣土帝国軍の兵達には、もう戦う気力も理由も無かったのだ。


そして氷の大陸の民衆の中には、燿炎達を迎え入れる事に抵抗の強い者も少なからずいたが、それでも、やはり、戦争が終わった事による安堵感に包まれている者達が大半ではあった。


民衆とは現金なもので、今まで露衣土を英雄として崇めていたのに、その露衣土が倒されると、今度は露衣土を倒した燿炎を英雄として崇める様になる。


民衆にとって英雄は誰であってもよいのだ。


平和に暮らす事が出来れば、それでいいのである。


その期待を今度は燿炎に託す事になっただけの事なのだ。


そして燿炎達、討伐軍は他の三大陸に加えて、氷の大陸も制圧する事になり、精霊の星、全体を制圧する事にもなった。


しかし露衣土と同様のやり方では、精霊の星、全体を纏める事は出来ないと考えて、各大陸毎にそれぞれ統治をしていく様にする。


氷の大陸では他の大陸に比べて、討伐軍のリーダーであった燿炎に対する反発も強かった事も考慮して、氷の精霊の守護を受けている事で、氷の大陸の民衆からの受けが良かった凍浬とうりが統治をしていく事となる。


燿炎は故郷を離れて、炎の大陸を統治していく事になり、麗羅れいらが風の大陸を、崩墟ほうきょが大地の大陸を、それぞれ統治をしていく事となる。


結局、四天王は自らを守護する精霊と同じ系統の大陸の統治をする事になった。


そして凍浬が氷の大陸に留まって、燿炎は炎の大陸へ、麗羅は風の大陸へ、崩墟は大地の大陸へと、それぞれに部下を引き連れて、自分が統治する大陸へと向かう。


その後、氷の大陸と炎の大陸は国土の広さと地域による習慣の多様性から、幾つかの国家に分割した上での連合国制を布く様になる。


風の大陸はそれほど国土が広くはなく、大地の大陸はまだ復活したばかりなので、そこまでする必要がなかった。


こうして精霊の星に束の間の平和が訪れる。


しかし、この平和もそう長くは続かなかった。


三十年程、経った後、炎の大陸を統治していた燿炎が何者かに暗殺されてしまったのである。


混乱の中で民衆は当たり前の様に平和を望む。


しかし平和の中で民衆が平和を望み続ける事はそう容易ではなかったりもする。


平和である事が当たり前になると、今度は混乱を求める者が増えてもくるのだ。


それが、この世の常なのかもしれない。


こうして精霊の星の民衆は再び英雄を失う事になって、徐々に炎の大陸から精霊の星、全体へと混乱が拡がっていく事になる。


そして精霊の星の民衆は再び新たな英雄の登場を待つ事となった。


─────


万象ばんしょうは言った。


『争いに依って手に入れた平和は長続きするものじゃない』


と。


正にその言葉通りになってしまったのだ。


しかし争わなければ平和を手にする事は出来ない。


これも、また、現実なのである。


そんな矛盾の中でこれまで人類は歴史を積み重ねて来て、これからも新たな歴史を積み重ねていく事になるのだろう。


           ☆弐章/英雄☆

                    完

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