挿話弐拾捌/再び動きだそうとする世界

ひょんな事から燿炎ようえんの迷いは晴れていた。


露衣土ろいどを倒したところで平和になるとは限らない。


しかし露衣土を倒さない限り、平和への希望が絶たれてしまいかねない。


だから平和への希望を絶やさない為にも、露衣土だけは倒さなければならない。


そして露衣土を倒した後、平和になるかどうかは、この世界全体の問題である。


討伐軍と云う一勢力、ましてや燿炎と云う一個人でどうにか出来るものではない。


更に言えば、自分で何とかしようなどと思う事は単なる思い上がりにしか過ぎなかった。


それは、ある意味、周囲に対する信頼の無さとも言える訳で、そんな事で皆を平和へと導く事なんて出来るはずもないだろう。


もっと皆を信頼しなければならない。


露衣土はそれが出来ていない様に思った。


だから先ずは皆を信頼する。


そして、そんな皆と一緒に試行錯誤して、皆で一緒に平和へと向かっていくべきなのだろう。


その機会を守る為の戦いであったのだ。


その機会を守る為に露衣土だけは倒さなければならない。


そして平和の為にと戦っている限りは露衣土と同様な事をする事になるだろう。


自分もまた倒されるべき対象にも、なってしまいかねないのだ。


それでは何も変わらない。


露衣土と自分が入れ替わるだけの事である。


これまで露衣土がやってきた事をこれから自分達が繰り返すだけなのだ。


危うく露衣土の二の舞を演じるところであった。


燿炎は己の愚かさを思い知る。


そして麗羅れいらを呼ぶ、燿炎。


「麗羅」


「何?」


麗羅が応えた。


燿炎が麗羅に礼を言う。


「ありがとう」


「急に変な事を言わないでよ」


麗羅は何で礼を言われるのか解らずに戸惑いながら言った。


そんな麗羅の戸惑いを余所にして、燿炎は麗羅に頼む。


「皆を集めてくれないか」


「解ったわ」


麗羅はそう言うと、その場を離れた。


一人残った燿炎は再び考え込む。


燿炎は炮炎ほうえんの言葉を思い出した。


『皆で何がなのかを模索していく。その過程こそが、本来、この世界のあるべき姿なのではないか』


この時はについて炮炎は述べた。


しかし燿炎はこのの部分をに置き換えても同様に言える様に思った。


も、また、どうすればになるのかを皆で考えて、一緒に試行錯誤をしていく。


その様な覚悟の様なものが大切なのかもしれない。


そして、その覚悟の様なものは試行錯誤と云う過程の中で育まれる。


そんな一朝一夕に出来る事ではないのだろう。


試行錯誤と云う過程を経なければ、そこに辿り着く事は出来ないのかもしれない。


それが炮炎の言っていた『本来、この世界のあるべき姿』なのではなかろうか。


そして燿炎は改めて思った。


自分はそんな世界がとても愛おしい。


何としてでも、そんな世界を守りたいと思う。


皆と一緒に、もっと、もっと、試行錯誤をしていきたい。


そして燿炎は露衣土城の方角を見上げながら呟く。


「露衣土よ、待っていろよ。お前は俺が倒す」


燿炎の表情には固い決意が込められている様である。


そして燿炎は皆が集まる会議場へと歩を進めて行った。

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