挿話弐拾漆/絶え間無い葛藤の中で

露衣土ろいど討伐軍が足止めを喰らう中で燿炎ようえんは一人、苦しんでいた。


反乱軍に加わったりせずに露衣土の下で戦っていれば、今頃はすでに平和を手にする事も出来たのかもしれない。


いや、それは違う。


露衣土の下で戦っていたら、この星を滅ぼすまで戦いを終える事は出来ないのではないだろうか。


しかし反乱軍に加わって、その反乱軍は今、討伐軍にもなってはいるが、この現状にしても同様の結末へと向かっている様にしか思えない。


一体、何がなのだろう。


露衣土も自分もどちらもだとは思えない。


燿炎がまだ若かりし頃に炮炎ほうえんや露衣土とについて語り合った事もある。


露衣土は言っていた。


は誰かが決めるものではない。改善をしていく、その行動にがついてくる』


炮炎は言っていた。


『皆で何がなのかを模索していく。その過程こそが、本来、この世界のあるべき姿なのではないか』


若かりし頃の燿炎はどちらかと言うと、露衣土の言う事の方が理解が出来ていた。


理不尽や不条理が罷り通る現実の中で、多少、強引にでも改善を促す必要もあるように思っていたからだ。


しかし、それを信じて戦いを続けている内に、目の前で理不尽や不条理が次々と生じてくる。


理不尽や不条理を無くしていく為に戦ってきたのに、戦う事で理不尽や不条理を生み出してもしまう。


そんな中でに対する疑問が強まってきて、今は炮炎の言っていた事の方が、なんとなくだが理解が出来る様に思っていた。


そして燿炎は更に思う。


とは、一体、何なんだろう。


を求めれば求める程、人は争わなければならないのだろうか。


自分はがしたいのだろうか。


自分はを求めているのだろうか。


自分はをすべきなのだろうか。


自分はなんだろうか。


「何をしているの?」


突然に麗羅れいらが声を掛けて来た。


燿炎は素っ気なく応える。


「別に何もしてないさ」


「また炮炎の事でも考えていたんでしょう」


麗羅は炮炎の事を持ち出した。


いつもの事である。


「うるせーよ」


燿炎は悪態をついたが否定も肯定もしない。


こちらも、いつも通りだった。


「平和って一体、何なんでしょうね」


燿炎が考えていた事と同じ事を麗羅が呟く様に言った。


燿炎は何も言えずにいる。


そして麗羅が続けて言う。


「いつも炮炎が言っていたわ」


「なんて言っていたんだ?」


燿炎が麗羅の言葉に食いついた。


話を続ける、麗羅。


「平和なんてものは己の内にのみ存在するもので、それを周囲に求めてはいけないってね」


確かに、そうなのかもしれない。


しかし今の燿炎の内に平和の存在は感じられなかった。


そして過去を振り返ってみても、平和を感じた覚えは一度も無い。


覚えていないくらい子供の頃には平和であったのかもしれないが、それでも世界の何処かで、子供には知り得る事の無い紛争が起こってはいたのであろう。


果たして、この世界に平和なんてものは存在するのだろうか。


燿炎がそんな風に想いを巡らせた、ちょうど、その時に麗羅が話掛けてくる。


「炮炎と一緒だった時は平和だったわ」


「どう?平和だったんだ?」


燿炎が麗羅に訊いた。


麗羅が先程の自らの言葉を否定する。


「でも、平和じゃなかったの」


燿炎の質問に対する回答としては不適切に感じたので、燿炎は黙って麗羅の次の言葉を待つ。


そして麗羅が話を続ける。


「だから戦う事を決めたのよ」


結局、燿炎の質問に対する納得のいく回答は得られなかった。


しかし戦う事の意味については、なんとなくだが解る様な気がする。


再び麗羅が続けて言う。


「露衣土は己の平和を全ての人々に押し付けようとしているの」


燿炎は何も言わずに、ただ、麗羅の話を聞いている。


話を続ける、麗羅。


「だから露衣土だけは倒さなければならないのよ」


確かに麗羅の言う通りだと思う。


そして燿炎は自分が平和を求め過ぎていた事に気付いた。


反乱軍のリーダーとなって、その責任感もあっての事だろう。


自分達が平和にしなければならない、と。


今までは平和の為にと戦っていたのだ。


しかし、この戦いは、その様なものではなかった、と気付く。


平和への希望を繋ぐ為の戦いであったのだ。

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