挿話弐拾玖/功を焦る司令官

氷の大陸、元、じょうの国のほぼ中心にある露衣土ろいど城。


露衣土はいつもの様に自室に篭って、窓から外を眺めている。


燿炎ようえん達、反乱軍が大地の大陸に新たな国家を建ててからというもの、露衣土の下に届いてくる知らせは良くないものばかりになっていた。


それもあってか、最近は特に炮炎ほうえんの事を思い出してしまう。


炮炎とは、いつも意見が合わなかった。


それでも、いつも一緒に居たのである。


今、思えば、あの頃が一番、楽しかった。


炮炎はどの様な時でも、決して理想を投げ出したりはしない、熱い男だ。


本当に自分とは正反対の男であった。


そして、だからこそ、の自分である。


炮炎の言う事は十分に理解が出来た。


しかし理解が出来てしまうからこそ、受け入れる事が出来なくなる。


眼下で繰り広げられる、理不尽さと不条理さに塗れた日常。


そんな日常の中で炮炎の言う理想は余りにも遠く感じて、それならば、と考える事が自分の原点であった様に感じる。


炮炎の言う理想とは違った世界を皆に見せる事こそが、自分の存在価値の様に思ったりもした。


そして、それは今も変わらない。


そんな風に思い巡らすと自分が滑稽にも思えてくる。


しかし、もう、炮炎はこの世にはいない。


露衣土自らが炮炎を葬ったのだ。


その代わりに燿炎が露衣土の前に立ちはだかる事になった。


面白い。


本当に面白い。


この世界の機敏というものに、いい知れ様のない面白さを感じずにはいられなかった。


そして露衣土の部屋に一人の男が入って来る。


「失礼、致します」


男が露衣土に向かって言った。


露衣土は男の方に振り返って、男の姿を確認する。


聞こえてきた声がいつもの報告係の男ではなかったからだ。


露衣土の部屋へ入って来た男は司令官である崙土ろんどと云う男であった。


「何用だ?崙土。司令官である、お前が此処に来るとは」


露衣土は崙土に嫌味ったらしく言った。


恐縮しながらも、すぐに一応の報告をする、崙土。


「燿炎達、反乱軍の一部がれいの谷へ迂回して、直接、こちらに向かっている様ですが」


「判っておる」


露衣土は淡々とそれだけを応えた。


崙土が露衣土の顔色を伺うかの様に訊く。


「如何、致しましょうか?」


「放っておけばいい」


素っ気なく露衣土は応えた。


露衣土の真意を測りかねて訊き返す、崙土。


「と、申しますと!?」


「此処へ来るというのであれば、迎えてやればいいという事だ」


露衣土は淡々とそう応えた。


再度、確認をする、崙土。


「宜しいのですか?」


「構わん。燿炎には私が直接に手を下せばいい」


露衣土はキッパリと言い切った。


今度は崙土が露衣土を気遣うかの様に言う。


「しかし露衣土様の手を煩わせる事もありますまい」


露衣土は厳しい表情で黙していた。


続けて今度は自らを売り込む様に崙土が言う。


「私が澪の谷へ出向いて、燿炎達を片付けて来ましょう」


「好きにしろ」


露衣土は相変わらずに淡々としたままだった。


そして崙土は露衣土の部屋を後にする。


「では、早速に」


再び自室で一人になった露衣土は窓から外を眺めて、厳しい表情で独り呟く。


「馬鹿め。何もそう死に急ぐ事もないだろうに。今の燿炎を倒せるとすれば私しかおらん。私が燿炎を倒す。或いは私が倒されるか、だ」

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