挿話拾玖/地平を踏む巨人

崩墟ほうきょ


風の大陸にあったなぎの国で生まれたが、当時、風の大陸では凪の国も含めた全土で、大地の精霊の存在は信じられていなかった。


その事から崩墟は十歳になった時に、炎、氷、風、いずれの魔法も使えなかったという理由に因り、『悪魔の子』と決め付けられて、凪の国から追い出されてしまう。


その後、放浪を続けて各地を転々としながら、大地の精霊に導かれるように、炎の大陸にあった万象ばんしょうが暮らす小さな村に辿り着く。


崩墟は生まれついた時から、言葉を発する事が出来なかったのだが、万象と出会う事に拠って、大地の精霊の守護を受けた者同士での意思疎通を可能にする魔法を習得する事も出来た。


そして万象と共に万象の暮らす村に、そのまま住み続ける事になる。


この村の住人の七割程は大地の精霊の守護を受けた者達であり、崩墟と同様に各地で故郷を追われた者達でもあった。


だから崩墟も先の住人達に温かく迎え入れられた。


崩墟は万象の暮らす村に辿り着く事で、やっと孤独から解放されたのでもある。


そして崩墟は生まれて初めて、幸福らしきものを感ずる事も出来た。


しかし、その幸福らしきものは束の間のものである事を万象から聞かされる事になる。


崩墟は精霊の星に選ばれた者であって、いずれ大地の大陸を復活するべく、この村を旅立たねばならない運命である事を万象から聞かされた。


崩墟はその話を聞かされて、最初は訳が判らずに混乱もしたが、万象の話をよく聞いていく内に本当の幸福というものを探す為にも、自らの運命とやらに乗っかってみる気にもなっていったのである。


自分が何故、この世界に生を受けたのか。


万象の話に拠れば、崩墟自身にも万象と同じ様にこの精霊の星から与えられた特別な役割があると言う。


その特別な役割が大地の大陸を復活させると云う事だった。


そして、その役割を果たす事こそが、崩墟にとっての本当の幸福なのかもしれない。


崩墟はそう考えるだけで、自分自身に対する期待で胸が躍る様な感じがする。


万象と出会うまでは、自分がこの世界には必要のない存在にしか思えなかった。


しかし万象はその様な崩墟に対して、この世界に存在するものは全て、それぞれに与えられた役割があると云う事を説いたのである。


崩墟は万象と出会って、万象の話を信じる事に拠り、やっと自分自身で自分を肯定する事が出来る様にもなったのだ。


そうなる事で崩墟の中の世界が一変する。


そうなる事で崩墟から見える世界が一変した。


それまで自分自身を恨み、世界を憎む事しか出来なかった自分が、自分自身を、そして、この世界を愛おしく思える様になったのだ。


そして自分には、大地の大陸を復活させる役割がある、と万象は言う。


崩墟はそれが本当であるならば、自分にとっては大変に光栄な事であると共に、自らの全てを懸けるだけの価値がある様に思えたりもする。


そして崩墟は万象と共に燿炎ようえん達との出会いを待つ事となった。


後に崩墟は『地平を踏む巨人』とも称される事になる。

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