• 風を掬う者

  • 弐章
  • 英雄
  • 挿話弐拾/氷の皇帝の孤独な戦争

挿話弐拾/氷の皇帝の孤独な戦争

氷の大陸、元、じょうの国のほぼ中心にある露衣土ろいど城。


その露衣土城の中を一人の男が露衣土の部屋へと急いでいる。


前線からの報告の役目を持った男だ。


男は露衣土の部屋に入ると、清々しい表情で報告をし始める。


岩堝がんか隊が燿炎ようえん達、反乱軍を掃討したとの報告が入りました」


「そうか、」


露衣土は表情一つ変えずに、それだけを呟く様に応えた。


報告係の男は少し拍子抜けしたが、そのまま露衣土の部屋を後にする。


「では、失礼、致します」


再び一人になった露衣土は少し考え込んだ。


ふと、昔を懐かしく感じた。


そして血気盛んだった若かりし頃の事を思い出す。


─────


「この国はもう駄目だ。腐っていやがる」


露衣土が腹立たしそうに言った。


炮炎ほうえんは露衣土とは対照的に冷静に話す。


「確かにな。しかし、だからと言って、我々まで腐ってしまっていいという訳ではないだろう」


「何、甘っちょろい事を言っているんだ。俺達は腐ってでも現状を打破する必要があるのではないのか!?」


露衣土が炮炎に食って掛かった。


そんな露衣土をいなす様に燿炎に意見を訊く、炮炎。


「燿炎。お前はどう思っているんだ!?」


「俺は炮炎の方が甘い様に思う。多くの民衆はそんなに世の中の事を構っていられる程、ゆとりがある訳では無い。多少、強引にでも改善していく必要があるのが、世の中なんじゃなかろうか」


燿炎は自身の意見をはっきりと炮炎に伝えた。


そんな燿炎の意見に対して、自らの疑問をぶつける、炮炎。


「例え俺達に正義があったとして、本当に俺達だけで決めてしまっていいのだろうか!?」


「誰が決めるかなんて関係ない。結果的に改善する事さえ出来れば、そこに正義がついてくるんじゃないのか!?」


今度は露衣土が炮炎の意見に対する、自らの疑問をぶつけた。


その露衣土の疑問に対して、炮炎は自らの意見を述べる。


「結果としての正義が大切なのではなく、皆で何が正義なのかを模索する、その過程が大切なのではなかろうか」


「そう悠長な事を言ってる間にも、我々の目の前では弱き者達が犠牲になっていってるんだぞ!?」


露衣土は再び炮炎の意見に対する、自らの疑問をぶつけた。


それでも尚、自らの主張を貫き続ける、炮炎。


「それでも、だ。力ずくの改善では、結局、それに因って弱き者達が犠牲にもなる」


「だったら、それこそ力ずくの改善でも変わりはないんじゃないのかな!?」


今度は燿炎が炮炎に素朴な疑問をぶつけた。


更に持論を繰り返す、炮炎。


「結果が変わらないからこそ、過程を大切にすべきだと言っている」


結局、この時の話し合いでは結論が出せずに、その後、炮炎が一人で二人の下を去って行く事になった。


─────


そして今は露衣土の方が一人ぼっちになっている。


露衣土にとっての戦争は今や、自分自身との戦いにもなっていた。


そんな露衣土がぼそぼそと独り言を始める。


「見てるか炮炎よ、そして燿炎よ。正義の旗は勝った者の下にのみ棚引くのだ。そして、その正義の旗の下にのみ、平和という魔物を呼び寄せる事が出来る。後少し、後少しで私が正義であった事を証明出来る。私に歯向かった事をあの世で悔いるがいい。そして私も行こう。平和という魔物を手懐けた後、お前達の悔しがる顔を私に見せておくれ。懐かしいな。昔はよく、お前達を悔しがらせたもんだ。正直、私は自分が憎い。平和が憎い。平和という魔物を手懐ける為にお前達を殺さねばならなかった事。だが、それも後少しで終わる。私は決して英雄になりたかった訳ではない。お前達と同様に、ただ、皆の幸福を望んでいるにしか過ぎない。だから全てが終わったら、また皆で語り明かそうぞ」


露衣土は一人、泣いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、気になる小説の更新を逃さずチェック!

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、お気に入り作者の活動を追いかけよう!