挿話漆/語り合う者達

燿炎ようえん、まだ、判らないのか?」


炮炎ほうえんが厳しい眼差しで燿炎に問うた。


「炮炎」


燿炎は炮炎の問いには答えられずに、それだけを言うのが、やっとだった。


そんな燿炎の様子を見て説得を続ける、炮炎。


露衣土ろいどのやらんとしている事が真の平和に繋がるものではない事を」


「んー」


燿炎は言葉にならない呻き声を発するだけだった。


突然、話に割って入ってくる、露衣土。


「言いたい事は言い終わった様だな」


「止めろ!露衣土!」


燿炎は露衣土を制止しようと叫ぶ。


─────


自らの叫び声と共に目を覚ます、燿炎。


これまでに何度となく見ている夢であった。


そして過去に現実として起こった事でもある。


「どうしたの?」


燿炎が目を覚ました事に気付いた麗羅れいらが声を掛けてきた。


平静を装う、燿炎。


「いや、何でもない」


「何でもない事はないだろう」


麗羅の向こうで寝ていた凍浬とうりが口を挟んできた。


燿炎は凍浬に大声で言う。


「うるせぇ!わざわざ起きてくんな!」


「うるせぇのは燿炎の方じゃねぇか!」


凍浬が大声で言い返した。


麗羅が凍浬を睨んで言う。


「凍浬」


「また叫んでいたのか」


燿炎は独り言の様に呟いた。


そして続けて燿炎が誰ともなしに言う。


「なぁ、真の平和って、なんなんだろうな!?」


「そうね、」


麗羅は相槌を打った。


自身の意見を述べる、凍浬。


「少なくとも露衣土が居る限り、平和なんてものは幻のままだろうな」


「そうか!?」


燿炎は凍浬に短く訊いた。


凍浬も短く応える。


「そうさ」


「俺は露衣土を倒したところで、真の平和が来るとは思えないんだよな」


凍浬の意見に対して、燿炎は疑問を呈した。


燿炎に理由を訊く、麗羅。


「どうして、そう思うの?」


「以前、露衣土と統一戦争を戦っていた時と、今現在、反乱軍として戦っていて、なんら変わりがない様に思うんだ」


燿炎は麗羅の問いに答えた。


凍浬が燿炎の言葉を限定的に肯定する。


「戦っている最中は、そうだろうな」


「そうね、問題はその後をどうするかでしょうね」


麗羅が凍浬の言葉を補足した。


更なる補足する、凍浬。


「露衣土はその後に大きな過ちがあるのさ」


「しかし、それでも同じ事の繰り返しなのではないだろうか」


尚、拭えない疑問を燿炎が口にした。


麗羅は燿炎の疑問に対して、先程と同様の答えをぶつける。


「だから、その後に同じ事を繰り返さない様に、ね」


「じゃあ訊くが、今も尚続く、露衣土の力に依る制裁に疑問は感じないのか?」


今度は凍浬が燿炎に訊いた。


「疑問を感じたからこそ、私達のところへ来たんでしょう」


燿炎が答える前に麗羅が代わりに答えてしまった。


麗羅の言葉に続く様に凍浬が嫌味ったらしく言う。


「もう少し早く気付いていれば、炮炎を死なせずに済んだのかもな」


「それは言わない約束でしょう!」


麗羅が凍浬に怒った。


数瞬の沈黙が三人を包み込む。


燿炎、麗羅、凍浬以外の者達は寝たふりをしたまま、三人のやり取りを聞いていた。


「確かに凍浬の言う通りかもしれないな。炮炎を殺したのは、俺なんだろうな」


沈黙を破って、燿炎が呟く様に言った。

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