挿話肆/突然の襲撃

燿炎ようえんは再び厳しい表情でれつの河の方を眺めていた。


一本の木に背を預けたまま腕を組んでいる。


その体勢で燿炎は炮炎ほうえんの事を考えていた。


元々は別に炮炎の事を考えていた訳ではない。


しかし先程、麗羅れいらに炮炎の事を言われた事で、炮炎の事を考えずにはいられなくなっていた。


その麗羅は燿炎のすぐ近くで、その場に座り込んで何も言わず、じっとして居る。


炮炎は燿炎の実の兄であった。


そして麗羅にとっては恋人であったのである。


その炮炎はすでに、この世には居ない。


炮炎の死には少なからず燿炎が関わっている。


それが先程の麗羅の言葉に繋がったのだ。


更に燿炎からすれば、触れられたくない事でもあった。


そして二人は黙ったまま各々、物思いに耽る。


麗羅もまた、炮炎の事を考えているのかもしれない。


そのまま、どれくらいの時間が過ぎたであろうか。


突然に燿炎の眼下に広がる大河が一気に凍り付いた。


それを目の当たりにした燿炎が叫ぶ。


「来たぞ!」


麗羅もすぐさま立ち上がって、何かしら、した様だ。


すると先程まで集まっていた者達が再び集まって来た。


燿炎達の近くに居た者達は燿炎の叫び声を聞き付けて、遠くに居た者達は麗羅のテレパシーに拠り事態を把握して集まって来たのである。


凍浬とうり、フォローを頼む」


燿炎が集まって来た者達の中の一人に言った。


「任せときな」


呼ばれた凍浬が応えた。


人並みの体格で非常に端正な顔立ちの男である。


大河の方を見ると、凍り付いた大河の上を数十人の者達がこちらへ向かって歩いて来ていた。


更に二人が上空を飛んで来ている。


露衣土ろいど帝国正規軍であった。


敵が大河を魔法で凍らせて、燿炎達を襲って来た様だ。


そして、いきなり炎と氷の矢を降り注いでくる。


数は七割程が氷の矢で、残りが炎の矢だった。


また炎と氷の矢に混じって、目で見る事が出来ない、かまいたちも襲って来ている。


そして敵の攻撃の割合はそのまま敵の編成にも繋がる訳で、燿炎を意識しての事なのか、氷の精霊の守護を受けた者が多めであった。


それら敵の攻撃に対して、燿炎と他数人の者達が氷の矢を炎の魔法で焼き払う。


炎の矢は凍浬と他二人の者達が人に当たりそうなものだけ、氷の魔法で消し去った。


かまいたちに因って、数人が傷を負ったが致命傷を負うまでには至っていない。


「今度はこちらの番だぜぇ」


燿炎はそう言いながら敵に向かって、物凄い量の炎を作り出した。


そして続けざまに言う。


「頼む、麗羅」


麗羅は突風を起こして、燿炎が作り出した炎を拡げながら、敵全体にその炎を浴びせる。


あっという間に敵は半数以下になっていた。


上空を飛んで来ていた風の精霊の守護を受けていると思われる者達が二人、炎に焼かれる事のなかった炎の精霊の守護を受けていると思われる者達が数人程。


風の精霊の守護を受けていれば、風の魔法で炎を避ける事が出来るであろう。


炎の精霊の守護を受けている者には、炎の魔法は効き目が無い。


それら残った者達は凍浬が氷の矢で貫く。


燿炎達は難無く敵を退ける事に成功した。

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