挿話伍/皇帝、城に篭る

氷の大陸、元、じょうの国のほぼ中心に此処、露衣土ろいど城は建てられていた。


浄の国は氷の大陸の北西にあったので、氷の大陸から東の方角にある炎の大陸までは、かなりの距離がある。


また浄の国のずっと南には風の大陸があって、距離的には炎の大陸よりも近かったのだが、氷の大陸の南側には険しい山脈が連なっており、直接に浄の国と風の大陸を行き来するのは、かなりの危険と困難を共にしなければならなかった。


そして露衣土は露衣土城を拠点にして、統一戦争を戦い抜いたのだが、統一戦争が終わってからというもの、この露衣土城から外へは出なくなっている。


何故なら露衣土が外に一歩でも出ようものなら、英雄として大騒ぎされるか、命そのものを狙われるか、そのどちらかが待っているだけだったからだ。


露衣土は決して命を狙われる事が怖い訳ではない。


英雄として騒がれる事も、命を狙われる事も、ただただ煩わしかったのである。


露衣土は毎日、この城にある自室で部下からの報告を受けたり、部下に指示を出したりと、そんな日常を過ごしていた。


そして今日もまた、露衣土は自室の窓から外の景色をぼんやりと眺めている。


いつも、こうして考え事をするのが露衣土の日課でもあった。


─────


「どうしても行くのか?」


露衣土は炮炎ほうえんに訊いた。


炮炎は露衣土の問い掛けに応える。


「ああ、もうお前には、ついていけん」


「そうか。止めても無駄な様だな」


露衣土は残念そうに言った。


そんな露衣土を余所に頼み事をする、炮炎。


「それよりも燿炎ようえんを頼む」


「それは構わないが、何故、一緒に連れて行かん?」


炮炎の頼みは引き受けた上で露衣土はその事に対する疑問を口にした。


露衣土の疑問に応える、炮炎。


「燿炎が自分の意思でお前と一緒に戦う事を選んだのだ。だから意見を違える俺が去れば、それで済む」


「そうか」


露衣土は短く応えた。


─────


若かりし頃の事を思い出していた、露衣土。


そこへ一人の部下が報告をする為に露衣土の部屋へと入って来る。


「ご報告、致します」


部下の男が露衣土に言った。


自室の窓から外の景色を眺めたまま短く応える、露衣土。


「うむ」


「燿炎等の反乱軍討伐に向かった水沂すいぎん隊が全滅したとの事です」


部下の男は作戦の失敗を告げた。


露衣土は素っ気なく応える。


「そうか」


「どう致しましょうか?」


部下の男が露衣土に指示を伺った。


露衣土が部下の男の方へ振り返る。


「燿炎の件は全て崙土ろんどに任せてある」


露衣土は部下の男に司令官である崙土へ指示を仰ぐ事を示唆した。


「分かりました。では、失礼、致します」


そう言って、部下は露衣土の部屋を出て行った。


露衣土は再び一人きりになると、向きを変えて窓から外の景色を眺める。


そして再び考え事を始めた様だ。


暫くすると、徐に語り始める。


「燿炎よ、何を考えている。私に歯向かったところで、その先に待っているものは死しかない事を、お前は一番、解っているはずだ。平和の為の犠牲を受け止められないのか。だとしたら甘いな、燿炎よ。それとも私の考えの方が甘いと言うのだろうか。いずれにしろ、お前と私のどちらかが命を捧げなければならないのかもしれないな」


露衣土は一人、自室の窓から遥か彼方を眺めていた。

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