挿話弐拾壱/見る目のある男
「お前等も、いずれは俺に斬られるんだからな」
新撰組の前身である浪士組結成時に、
屈強な者達が集まった浪士組の中でも、天竜は桁外れに強かった。
他の者達は天竜を恐れもしたが、仲間である事で安堵感もあった様である。
もし敵になる事があったとしても、大勢で立ち向かえば何とかなると思ってもいた。
だから天竜は浪士組、そして新撰組の中で重宝される。
悪く言えば、いいように使われていた。
しかし天竜はその様な事も承知の上で、浪士組、そして新撰組に身を置いていたのだ。
そんな天竜が何故、浪士組に参加したのか。
─────
浪士組に参加する前に一人の男との出会いがあった。
江戸に向かう道中の事である。
天竜に対して、日本の将来を憂いて熱く語ってきていた。
「私と一緒に来ないか!?」
天竜は男に誘われた。
男の誘いに対して天竜が立ち合いを求める。
「俺とやり合ってくれるのかい!?」
「為すべき事をやり遂げた後なら、幾らでも相手してやるよ」
男は他に優先すべきものがあるという理由で、立ち合いは受ける事を前提に先延ばしにしようとした。
天竜が男の言う優先すべきものを尋ねる。
「その為すべき事とは?」
「倒幕」
男はあっさりと極秘にしなければならない様な言葉を言った。
天竜はその様な危険な言葉を聞いて、楽しそうに若気ながら応える。
「やはり」
「どうだ?」
男は天竜の考えに変化が無いかを伺った。
天竜が男の危険な誘いに興味を示す。
「面白いな」
「なら、一緒に来い」
再び男は天竜を誘った。
しかし天竜は男の危険な誘いより、男の存在そのものに、より強い興味を示す。
「でも、お前とは敵になった方が、より面白そうだ」
「なんだと!?」
男は天竜の言う事がすぐには理解が出来ずに疑問を漏らした。
自分の言葉の真意を話す、天竜。
「確かに、お前の話を聞くと幕府側の方が分が悪そうだ」
「だったら何故?」
まだ男は納得が出来ずにいる。
男から漏れる疑問に少しずつ応えていく、天竜。
「何故も何も、だから、だよ」
「だから?」
男は詳しく天竜に訊く。
率直に応えていく、天竜。
「勝てそうな方に付いて勝っても面白くない。分の悪い方に付いて、俺の力で勝たせる事に男冥利がある」
「幾らお前が強くても、お前一人でそんな事が出来ると本気で思っているのか!?」
男は天竜の真意に対する否定的な疑問をぶつけた。
天竜は天竜で全てを承知の上である事を告げる。
「さぁな。本気かどうかはともかく、そっちの方が面白そうだって事だよ」
「そうか。残念だ」
男はやっと納得した様だった。
今度は天竜が男に訊く。
「それで、どうする気だ?」
「何がだ?」
男が天竜に訊き返した。
天竜は男に秘密を知った自分の処遇を確認する。
「俺をこのまま放っておくのか!?」
「ああ、放っておくしかないだろ。今、お前とやり合っても私に勝ち目は無い」
男も率直に応えた。
天竜は楽しそうに話す。
「よく判っているじゃねぇか」
「それにお前の言った事が本当であれば、お前は私の事を誰かに言ったりはしないはずだ」
男は秘密漏洩の心配が不必要な理由を述べた。
男の言う理由に対する疑問を訊く、天竜。
「何故、そんな事が言い切れる?」
「お前は分の悪い戦がしたいんだろう!?」
男は天竜の先程の言葉を逆手に取った。
言われて納得する、天竜。
「確かにそうだな」
「そしてもっと強くなった私と戦いたい」
男は自身の見解を付け加えた。
天竜は男の見解をそのまま受け入れた。
「その通りだな」
そして二人はどちらからともなく笑い合う。
「ふふふ」
「ははは」
数瞬の間、笑い合った後、男が天竜に話し掛ける。
「そういう事なら、私はいつまでもお前の相手をしている暇は無い」
「そうだろうな」
短く応えた、天竜。
「さらばだ」
そう言うと男は立ち去って行った。
「あばよ」
天竜が応えた。
天竜の話相手をしていた男。
その男の名は
長州藩士であり、その中でも重要な役割を担っていた男である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます