挿話拾玖/待つ男達

数刻前に日も暮れて、辺りは闇に包まれている。


日暮れ前から雨が降り出して、今はかなり強く降っていた。


新撰組の屯所である前川まえかわ邸に点々と幾つかの灯りが点っている。


すでに大半の者達は床に就いていると思われるが、まだ起きている者が幾らか居る様であった。


中には仕事をしている者も居るのかもしれない。


その中の一つの部屋で、行灯の灯りが二人の男達を薄らと照らしている。


二人の男達は思い思いに酒を酌み交わしている様だ。


新撰組の組長である近藤勇こんどういさみと副長の土方歳三ひじかたとしぞうである。


土方が近藤に呼ばれて、新撰組の屯所の中にある、この近藤の部屋へ来ていた。


「しかし斉藤さいとうまで、やられちまうとは、な」


近藤が独り言の様に呟いた。


数日前に三番隊の隊長であった斉藤と隊士が二人、何者かに斬られていたのだ。


雨音に邪魔されながらも、二人はその件での対応を話し合っていた。


土方が率直な疑問を口にする。


「何者なんでしょうね?」


「誰かは分からねぇが、虎次郎こじろうを斬った奴と同一人物ではある様だぜ」


近藤は投げやりな感じで応えた。


同一人物だと考えられる根拠を言う、土方。


「斉藤も虎次郎と同じ様に首を一突き、ですか」


「そういう事だ」


近藤はそれだけを応えた。


土方が近藤に対応を伺う。


「どう致しましょうか?」


「どうもこうも、斉藤が敵わないとなると迂闊には動けないぜ」


近藤は難しそうな表情で土方の言葉に応えた。


現状において考えられる問題点を土方が付け加える。


「そうですね。斉藤よりも腕の立つ者は私達を含めても、数人しか居ませんからねぇ」


「しかも夜中にしか、やりやがらねぇからな」


近藤は更なる問題点も付け加えた。


自分達が抱えている問題に対して、土方が別の見方を示す。


「相手が多勢であれば、また、話も変わってくるのでしょうが」


「そうなんだよな。相手が一人の時、暗闇でやり合うと、同士討ちの危険が増えるだけだぜ」


近藤は土方の見方を受けた上での問題点を挙げた。


他にも同様の危険性がある事を土方が指摘する。


「勿論、相手が多勢であっても、暗闇の中では同士討ちの危険は高いのでしょうが」


「一人に対して、それだけの危険を冒さなければならないものなのか」


近藤が危険性に対する疑問を口にした。


土方が短く応える。


「そうですね」


「俺達には、まだまだ、やらなければならない事がある」


近藤が厳しい表情で言い切った。


相槌を打つ、土方。


「はい、」


「だからと言って、このままにしておく訳にもいかねぇだろうよ」


厳しい表情のまま話を続ける、近藤。


土方が面白く無さそうな表情で言う。


「我々の面子にも関わりますからね」


「面子もそうだが、我々の評価に直接、響いてくるからな」


土方と同様に、近藤も面白く無さそうな表情で言った。


短く応える、土方。


「そうですね」


「来たか、」


何者かの気配を感じ取った、近藤が呟いた。


すると廊下側の襖が開かれて、一人の大柄な男が部屋に入って来る。


男は襖が開かれるまで一切の物音を殺して、この部屋まで、やって来た。


額から左頬にかけての大きな刀傷が目立っている。


黒谷天竜くろたにてんりゅうであった。

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