挿話拾捌/過信する男

夜空には満月が浮かんでいる。


その月明かりが辺りを照らす中、虎士郎こしろうは三人の男達と対峙していた。


三人の内、左右に居る男が提灯を持っている。


真ん中の男は何も持ってはいない様だった。


その提灯の灯りと月明かりに照らされて、虎士郎の顔が浮かび上がる。


「虎士郎じゃないのか!?」


三人の内、真ん中に居た男が虎士郎に声を掛けた。


どうやら、この男は虎士郎と顔見知りの様である。


しかし虎士郎は何も応えずに刀を構えて真ん中の男を睨んでいた。


三人の内、右側に居る男が言う。


斉藤さいとうさん、ひょっとして、」


「ああ」


真ん中に居る男が短く応えた。


真ん中の男が斉藤という男の様である。


三人の内、左側に居る男が言う。


「と云う事は虎次郎こじろうを斬ったのも、」


「そうだろうな」


斉藤が応えた。


途端に斉藤以外の二人の男達は刀を抜き、虎士郎に向かって構える。


「ふふふ、」


斉藤が視線を下に落として、少し笑った。


右側の男が虎士郎に視線を止めたまま斉藤に訊く。


「どうかしたのですか?」


「いや、まさか、虎次郎を斬った奴が身内だったとは、」


斉藤は苦笑いをしながら言った。


左側の男が言う。


「盲点でしたね」


虎士郎は微動だにせずに斉藤を睨んでいる。


斉藤が誰ともなしに言う。


「とりあえず、このまま見過ごす訳にも、いかねぇだろうよ」


「はい」


左側の男が応えた。


「そうですね」


右側の男も応えた。


虎士郎は相変わらずに斉藤を睨んだまま微動だにしない。


今度は斉藤が左右の二人に対して言う。


「二人で掛かれば、なんとかなんべぇ。中島なかしま葛山かつらやまに任せるぜ」


「はい」


中島と葛山は声を揃えて応えると、提灯の灯を消して地面に置いた。


そして二人は左右に拡がりながら虎士郎との間合いを詰めて行く。


虎士郎は二人には目もくれずに斉藤を睨み付けていた。


中島と葛山は目で合図をして、同時に虎士郎へと斬り掛かって行く。


虎士郎は難無く二人の刀を躱して、自らの刀を一閃した。


中島と葛山は縺れる様に虎士郎の背後で倒れ込んでいく。


二人共に腹を深く斬られていた。


二人共にまだ息はあるが、死ぬのは、もう時間の問題である。


「ほほう、」


それを見ていた斉藤がちょっとの驚きの表情を見せていた。


虎士郎は斉藤の目の前で刀を構えて、斉藤を睨み付けている。


「どうやら隠岐おき家の恥晒しとは見当違いだった様だな」


そう言いながら斉藤はゆっくりと刀を抜いて構える。


中島と葛山は、もう息絶えていた。


数瞬の静寂が二人を包み込む。


その静寂を破って、虎士郎が先に動いた。


途端に斉藤も虎士郎に向かって動く。


一気に間合いが詰まる。


斉藤は虎士郎の刀を受け流し、虎士郎に向かって刀を振った。


しかし虎士郎も斉藤の刀を紙一重で躱して、体を入れ替えた形で再び向き合う。


「なるほどな。これじゃあ、中島と葛山には荷が重かった様だな」


斉藤が感心する様に言った。


虎士郎は相変わらずに無言で斉藤を睨んでいる。


「今度はこちらから行かせて貰うぜ」


そう言いながら斉藤が虎士郎に斬り掛かる。


虎士郎は避ける事をせずに自らの刀で受けた。


数度程、刀の鎬合いをした後、急に虎士郎が斉藤の刀を素早く避ける。


斉藤が少し体勢を崩す。


斉藤はすぐさま体勢を立て直したが、その時には虎士郎の刀が斉藤の喉元へと伸びて来ていた。


斉藤は右後方へと飛び退いたが、虎士郎の刀の方が速く斉藤を追い掛ける。


斉藤は目を見開いたまま、喉元を虎士郎の刀に貫かれていた。

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