挿話玖/隠岐虎士郎という男
京都で有数の剣術道場を開いている隠岐家の四男で、三男の
長子である
そして武家の家系に生まれた為、当然ながら兄達と共に、武道を叩き込まれる事になる。
その隠岐家では出来の悪い者に対して、より厳しい修行を課していた。
虎三郎と虎士郎が修行に加わるまで、その扱きの対象は虎次郎であったのだが、虎三郎と虎士郎が修行に加わる様になると、その扱きの対象は虎士郎へと移る事になる。
虎三郎は幼少の頃から優秀だったからだ。
一方、虎士郎は剣術の修行において、表面的には何の才能も発揮が出来ずにいた。
その事で虎士郎は周囲から『隠岐家の恥晒し』と罵られたりする事になってしまう。
そして虎士郎が十六歳になった時に『隠岐家の恥晒し』をいつまでも本家に置いておく事は出来ないという事で、本家からは追い出されて、近所で一人暮らしをさせられる事になる。
ただし母親の計らいで、生活に必要な物は用意されていたので、自立が出来ているとは言い切れなかった。
そんな中、虎士郎が本家から追い出されるのと時を同じくして、多重人格が顕れ始める。
夜になり主人格が眠りに就くと、もう一つの人格が目を覚まし、夜な夜な京の町に出掛けて人を斬っていた。
この二つの人格はそれぞれ別人格の存在を知らず、別人格の時の記憶は全くない。
そして主人格の時には人を斬るどころか、他者に攻撃を加える事すら出来なかった。
しかし、もう一つの人格の方は非常に残忍で、人を斬る事のみを生きる糧としているのである。
また主人格の時には、厳しい修行の成果も見た目には出せないでいたのだが、もう一つの人格には、その修行の成果と虎士郎の内に秘めたる才能が、十分に見て取れた。
虎士郎は父と兄からの扱きを受ける事で、いつしか人並み外れた観察力を身に付けていたのである。
そして、その観察力を以って、扱きを受ける際に急所を外す事をしていた。
攻撃を躱そうと思えば躱す事も出来たが、躱してしまうと、その後、余計に扱きが厳しくなったりもする。
それを避ける為に攻撃を受けながらも、ダメージを最小限に抑える術を身に付けていた。
そして、その様な事が実戦において、虎士郎を無敵の強さにしていたのだろう。
虎士郎には相手の攻撃の全てを見切る事が出来た。
相手を攻撃する力が未熟でも、相手からの攻撃を受けなければ、いつしか相手に隙も出来る。
その隙を突いて攻撃すれば、未熟な攻撃も有効に出来た。
その様にして、これまで虎士郎は人を斬り続けてきたのである。
因みに虎次郎を斬った時は、虎次郎を待ち伏せしていたのではなく、誰かが通り掛かるのを待伏せていたところを、たまたま虎次郎が通り掛かっただけであった。
虎士郎はいつも、その様に京の町の何処かで待伏せて、通り掛かった誰かを斬っていたのである。
そして実は、隠岐四兄弟の父である
しかし、その事も主人格は全く覚えていない。
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