挿話漆/隠岐虎三郎という男
京都で有数の剣術道場を開いている隠岐家の三男で、四男の
長子である
そして武家の家系に生まれた為、当然ながら兄達と共に、武道を叩き込まれる事になる。
その隠岐家では出来の悪い者に対して、より厳しい修行を課していた。
虎三郎と虎士郎が修行に加わるまで、その扱きの対象は虎次郎であったのだが、虎三郎と虎士郎が修行に加わる様になると、その扱きの対象は虎士郎へと移る事になる。
虎三郎は幼少の頃から優秀だったからだ。
父の
長子の虎太郎と、それに負けるとも劣らない、いや、それ以上の才能を感じる事も出来る虎三郎を、源太郎は溺愛する。
それは長子である虎太郎と同じくらいか、それ以上と言ってもいいくらいであった。
そんな中で順調に成長していく、虎三郎。
兄弟達の中では微妙な立ち位置に立たされる。
長子の虎太郎は父である源太郎に引っ付いて、剥がそうにも剥がせない様な感じであった為、源太郎と一緒に、時には源太郎以上に、虎次郎と虎士郎を扱きに扱いた。
源太郎にとって虎次郎と虎士郎は出来が悪くとも、実の子供である事には変わりがなく、その扱きにも愛情があってのものであったが、虎太郎には出来の悪い弟達に対しての嫌悪感の様なものがあった。
それが時に過剰とも言える程の扱きを、虎次郎と虎士郎に強いる事にもなっていた様である。
勿論、虎三郎が扱きの対象になる事もあったが、出来の良かった虎三郎を源太郎は可愛がっていたので、それを見ていた虎太郎は、虎三郎に対しての遠慮があったりもしてした。
そんな中で虎三郎は自然と、虎太郎と虎次郎、虎士郎との仲を取り持つ様な立ち位置になったのである。
虎太郎と違って虎三郎には、虎次郎や虎士郎に対する嫌な感情は無かった。
ただ、その様な状況の中で、孤立しかねない虎太郎との距離を意識する様になっていく。
面倒見の良かった虎次郎に虎士郎を任せて、自分は虎太郎に近しい位置に居て、兄弟達の均衡を保とうとしたのだった。
その様な環境が虎三郎の人間性を育んで、また剣士としての素養を磨く事にも一役買っていたのかもしれない。
隠岐四兄弟の中でも虎三郎が一番、人間的にも剣士としても、バランスが取れていて、尚且つ優れてもいた様である。
長子の虎太郎は剣士として大変に優秀であったが、傲慢さが目立つ人間性であった。
次兄の虎次郎は剣士として平凡であったが、他人を思いやれる人間性があった。
虎三郎はそんな兄達の長所を合わせて、短所を省いた様な人間に成長した様だ。
そして虎三郎は虎次郎と共に、新撰組に入隊する事になる。
道場の跡継ぎには虎太郎が居るからだ。
虎太郎以外は他に道を模索しなければならなかった。
時代が時代だけに、就職先としての新撰組は十分に魅力的ではあっただろう。
そして新撰組という環境も、虎三郎に良い刺激を与えている様に思われる。
だから現時点では実力において、虎太郎に及ばない虎三郎ではあったが、いずれ虎太郎に追い付き追い越す事も、時間の問題なのかもしれなかった。
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