最後に注文する寿司ネタは?

地雷原

第1話

「今日の仕事よかったぞ。どうだ、Pに寿司券貰ったから食いに行くか?」

「本当ですか先輩?! 回らないの行きましょう、回らないの!」


 仕事帰りの繁華街で憧れの……よりも、その先の気持ちで見つめていた先輩に誘われちゃった。こんな機会、次はないかも。


「いらっしゃいませー」


「寿司券は一万円分だ。バンバン頼んだらすぐに超えるから、これでゲームをしよう」

「ゲームですか?」


 先輩が手に持つのは、どこの寿司屋にもある魚の名前が書かれた湯呑。


「漢字が読めたら注文してよし、早い者勝ちな。大将、マグロ!」

「えぇー!? ちょっとズルいですよ先輩!」

「何いってるんだ。この程度が読めないで仕事ができるのか? それとブリも」

「えっ? あっ、玉子をください」

「へい、おまち!」


「じゃぁ、カツオを」

「うぅ~高いネタばっか……あっ、海老ください」

「お、それなら海胆ウニを」

「がぁー! 私も食べたいのにー!」

「へい、おまち!」


「勉強不足だな、他にないのか?」

「うぅ~あっ、これアサリ!」

「ならアワビ

「ちょ、先輩ズルい!」

「へい、おまち!」


 先輩はスラスラ漢字を読んで注文をしてズルい! だけど、ちょっとカッコいい。

 だけど、このままではすぐに一万円分に達してしまう――。


「どうした? もう読めるネタはないのか? 大将、熱燗のお代わりを貰えるかな?」

「少々お待ちを」


 大将さんが調理場の奥へとお酒を取りに行きました。その間も私は読めるネタを探して湯呑と睨めっこ――あっ!


「この漢字は読める! 大将っ! きすくださーい!」


 調理場の奥にいる大将に声を上げて注文すると。


「すいません、そちらはネタ切れでして……」


 調理場の奥から大将が一瞬だけ顔を出し、また奥へ。


「そ、そんな~」

 

 がっかりです――せっかく読めるネタを見つけたのに……。


「なぁ、そんなに鱚が欲しかったのなら……」


 先輩の手が私の方に回り、その顔がゆっくりと近づいて――。




 その日、最後に味わったキスはお寿司の味がしました。



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