エピソード25「大演習」
第二方面艦隊では旗艦である戦艦ムツを中心に機動部隊、砲雷戦艦隊、潜宙艦隊と三部隊に分けて艦隊の編成を行い、イノウエはこれを全艦に通達した。編成は基本的に死の星会戦時の編成の第二方面艦隊といった感じで以下のようになった。
主力艦隊(砲戦艦隊)
司令官 シゲヨシ・イノウエ元帥
旗艦 ムツ(戦艦)
戦艦 ヒュウガ、ヤマシロ、フソウ、シキシマ、カワチ、キイ
巡洋艦 チクマ、アシガラ、ハグロ、アソ、ヒダカ、イシカリ
駆逐艦 五十隻
空母 無し
潜宙艦 無し
機動部隊
司令官 チューイチ・ナグモ元帥
旗艦 タイホウ(空母)
戦艦 無し
巡洋艦 エド、ナチ
駆逐艦 三十隻
空母 ゲンブ、ショウカク、ズイカク、ジュンヨウ、
潜宙艦 無し
潜宙艦隊
司令 ノボル・ヒラタ大将
旗艦 カ86(潜宙艦)
大型潜宙艦 カ87~90
中型潜宙艦 イ248~258
通常艦艇 無し
演習場はフソウ星からやや離れた無人恒星系が選定された。今回の大演習は陛下がその目で我国の軍備を確認すると言って御召艦となっているコンゴウ級戦艦のヒエイにて観戦されるらしいという噂が飛び交って、全員気合いを入れた。
「いいか、今回の演習では我々第二方面艦隊は第三方面艦隊と実戦演習を行うこととなった。使用する弾薬は演習弾だ。命中直前に自爆する。これによって船体に損害を与えずにコンピューターによって命中判断と艦の負った損害判定がされ、それがその艦の耐久を超えた場合に撃沈あつかいとなる。又、主砲等の陽電子兵器は砲口から特殊レーザーを出して、再びコンピューター判定となる。ダメコンはその対処した地区の耐久がやや回復する。まあ、ようするに普通の実戦演習だ。ルールもこれまで通り撃沈判定された艦艇は離脱だ。いいな。
演習開始は六時間後、今から二時間で全艦砲の安全確認を行え。陽電子砲暴発は一瞬で地獄絵図を作るぞ。では作戦を決めよう。」
第二方面艦隊の宿舎で艦長及び各空母の飛行隊長が出席する会議が行われていてイノウエが演習のルール説明と作戦説明をしている。
「敵は第三方面艦隊だ。戦艦の数は7:7で互角だ。ただし我艦隊にはムツがいるからな。砲戦では優位に立てると思われる。問題は敵の潜宙艦隊だ。こちらがカイダイ型五隻、イ型十隻しか潜宙艦がないのに対し敵艦隊はカイダイ型七隻、イ型十六隻を有する。これに対しては駆逐艦、そして機動部隊の例の部隊が役に立つはずだ。そして機動部隊、潜宙艦で不利な部分は機動部隊の数的有利で取り返せって事だろう。こちらが空母五隻を投入したのに対して敵は三隻らしい。つまりこの戦いでモノをいうのは偵察である。ヒュウガ及びカイダイ型各艦のシンデン、それから各空母のシンデン偵察機型が偵察をしっかりして先に発見できればワンサイドゲームにもなり得る。我々は安定の機動部隊のやや前に主力艦隊、そして更に前方に広範囲に潜宙艦を展開させて目を確保する。始終敵の位置を把握し、航空隊でその数を減らし、主力艦隊の砲雷戦で止めを刺す。では、配置につけ。」
「はっ!」
艦長及び飛行隊長が散っていった。
「ふう、トモナガ少佐。航空隊の仕上がりはどんなもんだ?」
「艦長、大丈夫です。全員御前なので緊張してこそいますが会議前に見た感じでは良く集中していたと思います。」
「そうか、トモナガ少佐、貴様の指揮に期待している。」
「期待にそえるよう努力いたします。」
演習開始と同時に機動部隊はすかさず球形陣になり、カタパルトの用意を始めた。
「例の兵装ができ次第サイウンを出せ。何分位で用意できる?」
艦内放送で格納庫にドーマエは命令を送った。
「後7分程で全機完了します!」
「ようし、わかった。」
サイウンはエレベーターから出て誘導ロボットがカタパルトに誘導した。
「サイウン一番機、発艦準備完了。」
「発艦せよ!」
電子カタパルトが強引に機体を光速を超える速さまで加速させて宇宙空間へと打ち出した。
「二番機以降も発艦させろ。」
サイウンは翼に投下型熱源ソナーを搭載している。これで敵の潜宙艦を探り当てるのだ。
「サイウン隊、持ち場につきました。」
電探から報告が入る。
「ようし、シンデン隊、発艦せよ!」
複座の偵察機に改良されたシンデンがカタパルトで打ち出される。
「攻撃隊は甲板に並べておけ。」
第二方面艦隊では、艦戦、艦爆、艦攻の順で発艦開始前から飛行甲板に並べておく。そうすることでエレベーターを使わずに素早く航空機を展開させられるのだ。
「後はひたすら待つだけだな。」
対潜警戒をしながら前進していった。
「引っかかりました!敵潜宙艦四!駆逐艦が向かいました。」
「ソナー手、特別弾の熱に注意しろ。甲板の誘導ロボットは機体のロックができてるかどうか調べろ。できてなかったらロックし直せ。」
シールドも装甲も薄い空母ではあたりどころによっては特別弾一発で致命傷を受ける可能性もある。
「之の字航行、敵に狙いをつけさせるな。後方からの特別弾に備えてデコイ発射用意だ。」
てきぱき指示を出して敵潜宙艦に備える。
「デコイ用意よし!」
「ようし、戦闘機隊、発艦始め!誘導ロボットは戦闘機のロックを解除して戦闘機を発艦させろ! 航空機が飛んでるだけで潜宙艦に与えるプレッシャーは変わってくる。僚艦に待機しているサイウン二次隊を送り込むように進言しろ、潜宙艦狩りの開始だ!」
対潜特別弾を満載したサイウンと駆逐艦が猟犬のように潜宙艦を探る。
「特別弾熱源探知!目標は本艦とおもわれる。」
「デコイ発射!之の字航行続けよ!」
「敵特別弾、迷走中!」
第一波をなんとか乗り越えた。
「駆逐艦ソラナミより入電です!「我電探ニ敵機影ヲ感知ス!座標ハ今カラ送ル、至急戦闘機ヲ送ラレタシ。」以上です!」
「よし、送られてきた座標は戦闘機隊に共有!対空戦闘用意!それにしてもウチの偵察隊はまだ敵艦隊を発見できんのか?」
「いえ、まだ報告はきておりません。」
ドーマエはいらだつのをこらえて冷静に振舞っていた。
フルサワ率いる戦闘機隊は送られてきた座標めがけて前進していた。フルサワは電探に敵の機影を捉えた。バンクして味方に伝えるといきなり対空誘導弾を放った。レーダーで誘導してくれるため、撃ちはなしで問題ない。先制の超遠距離攻撃だ。こちらは全戦闘機を送り出している。敵が仮に全力をつぎ込んでもこちらの戦闘機は180機、敵は戦闘機最大108機に攻撃機、爆撃機が合わせて最大180である。零戦隊はフルサワの指揮で左右に分かれた。片方はフルサワが、もう片方はササイ大尉が率いた。
「敵編隊接近!」
通信が入った。
「全機、突入せよ!目標は攻撃機、爆撃機である。」
そう言うと翼を翻してフルサワは突っ込んだ。初手として一撃離脱を行った。
「よし、あれだ。」
フルサワは一番右側の九七式艦攻テンザンを襲った。
「喰らえ。」
レーザーを放ち、それを確認したテンザンのコンピューターが被撃墜判定を出したのを確認するとフルサワは僚機を連れてそのまま敵編隊を掠めるように降下してある程度はなれたところで体勢を立て直した。既に敵の直掩隊も集まってきており、乱戦だった。羊の群れを襲う狼の如く執拗に敵編隊に切り込んでいく零戦隊、次々と被撃墜判定を受けた機体が離脱して付近の飛行場に着陸する。フルサワは艦爆隊の前方下の死角から襲いかかって二機目の撃墜を記録した。フルサワは新兵のバディ、オーマツ二等飛行曹に撃墜させてやろうと考えた。
「おいマッツ。」
フルサワの声に緊張したオーマツの声が返ってくる。
「はい。なんですかフルサワ大尉。」
「お前が先行しろ、目標は一時方向の艦爆、あいつら完全に油断しきっている。撃墜しろ。マッツ、頑張れ!」
そう言うとフルサワはスロットルを絞って二番機の位置についた。
「わかりました。」
フルサワの前で零戦が艦爆に突っ込んでいく。フルサワは後方を警戒して僚機を支援する体勢をとる。零戦がスイセイと交差した。
「どうだ?」
離脱したスイセイは無い。フルサワは近づいて仕留めた。
「大尉、すいません。」
「よし、もう一回やってみろ、いいかマッツ、これは演習だ。別に貴様は俺がカバーするからな。今回は攻撃目標、角度も自由に設定してみろ。」
「わかりました。」
そう言うと一気に機体を捻って敵艦攻の後ろ斜め下についた。上側にのみ旋回機銃が向いている艦攻の最大の欠点だ。攻撃開始しようとした時フルサワはレーダーを見て、とっさに叫んだ。
「マッツ、離脱しろ!」
オーマツは本能的に降下した。フルサワはマッツがいた所を通り抜けた零戦を追った。
「マッツ、ついて来い。」
今のマッツを狙って待機していたなら相当の腕前だ。
「マッツ、注意しろ。おそらくかなりの腕だ。俺が戦う、支援を頼む。」
「りょ、了解!」
フルサワは素早くその機体を追跡する。割とすぐそいつはフルサワの射程圏内に入ってきた。
「喰らえ!」
レーザーは華麗に回避された。
「クソ野郎!」
すぐさま射程圏外に逃げられた。
「しかたない、マッツ、空戦宙域を離れて体勢を立て直す。」
「了解!」
空戦宙域を離れると無線が入った。
「こちら機動部隊、敵艦爆隊が来襲しつつあり、支援を求む。」
通信を聞いたフルサワは素早くガス雲に身を隠すとガス雲の中を自軍の艦隊目指して進んだ。ガス雲を抜けるとそこには約二十の艦爆が散開して攻撃体勢をとろうとしていた。
「マッツ、食い止めるぞ!」
「了解しました。」
空母に向かう艦爆、そしてそれを阻止しようとするフルサワとオーマツ、どちらに軍配があがるのだろうか?
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