第2話 7月20日転校が決まった日

それは突然だったし、計画されていたことでもあった。

ただ単に、親が俺に説明するのをギリギリまで先延ばししていただけ、だ。


夏休みが始まって1日目。

「そうそう、9月から秋田に転校するから」

母親は当たり前のように俺にいった。

そして仕事に出かけた。


「へっ?」

拍子抜けした俺は理解をするのに1分ほど時間を使ったけれど、そのときには親はもう目の前にいなかった。


うちは俗に言う母子家庭だ。

父親はよくわからないけれど俺が2歳の時に死んだらしい。

どうやら心筋梗塞らしいので、死別、ってやつだ。

まあ、物心ついた頃から母子家庭だったのでそれが特別なことだとは思わなかった。

母親は働いているので生活もまあ大丈夫。

わりと幸せに暮らしていたと思っていたんだが。


どうも会社から母親に秋田に転勤しろ、という辞令が出たらしい。

男女が均等に扱われる世界になって、オンナだろうが会社に従って転勤されされる。

これって誰も幸せになっていない気がする、が。世の中の流れってのには逆らえない。


とはいえ、俺もリアルな友だちなんて「いない」と普段から思っているのでまあ転校についてはわりと早めに了承した。

世の中、友だちなんて存在は作るのが難しくて、たいていの人間は『知り合い』なんだ。

心なんてお互いに見えないし、気も遣い合う。

それは『友だち』ではなくて『知り合い』だ。

そして知り合いの作り方は16年の人生で学んできた。

とても簡単で当たり前の行動をとればいいだけ。


毎日学校に行くたびにさっと目を合わせて挨拶をしていく。

1人1人に挨拶をしさえすれば目に見えないつながりみたいなのができる。

これが知り合いの作り方。

ただし、俺には友だちの作り方はわかっていない。

まあ、友だちはいなくても人生困らない。

ペアを作るときに知り合いさえいれば誰かは捕まえることもできるし、とりとめのない会話も相手の気持ちを否定せずに適当に会わせれば良いだけなんだから。

リアルなんて攻略するのは簡単なのだ。

それよりもネット方が攻略は難しい。


なぜなら、ネットには頭のいい小学生もいれば、どう考えても幼稚園児より頭の悪い大人だっているから、だ。

そんなネットの世界で俺は常に戦っていた。


その戦場はニコニコ動画、だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新聞部が本気出したらネットメディアになっていた おだんご @oda

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ