16 凶兆
学校が終わると、私はみんなに先に行くと伝言して、走って林の前まで来た。尾行がないことも一応確認する。
「――遅いぞひねり。わらわを待たせるなど二千年早い」
「……スフィーが早いんだよ」
私は息をととのえる間もなく、今朝の情報を伝えておく。
「そうか……」
「どう思う? 『自分で考えろ』はナシで」
「それが五月の物とはっきりせんことにはな。まったく関係のない別人が、似た眼鏡を落としたのかもしれんぞ」
そう言いながら、自分でもそんな話は信じていないように見える。
「ユイさんが言うには、ああいう眼鏡をしてる人はこの学園に他にいないって」
「最近作ったかもしれんではないか」
「そこまで疑ったらきりがないよ。五月先輩の眼鏡と仮定して推理してよ」
「おや、『探偵部だけで真実を突き止めて見せる』のではなかったのか?」
……嫌な所で揚げ足を取る。まあ実際勢いでそう言っちゃったんだけど。
「じゃあ、『探偵部とスフィーで』に訂正」
「すぐにナイフを抜いたからといって、人を刺したのをなかった事にできるか?」
……つくづくスフィーは頑固だ。私はあきらめて話を変える。
「そういえばスフィー、みんなが来てからしゃべっても大丈夫? もし聞かれたらまずいんじゃない?」
「心配いらん、他の者にわらわの声は聞こえぬ。もし見られても、おぬしがひとりで会話できる超人として周囲から冷たい目で見られるだけだ」
……それは絶対にいやだ。
「でも、どうしてみんなには聞こえないの?」
「物理的に音を出しておらぬからに決まっておろう」
「けど、今も声を――」
「出しておらん。そう見えるよう口を動かしておるだけだ。そのほうが感覚的に受け入れやすかろうと思ってな」
「声が出てないなら、どうして聞こえるの?」
「相手の脳に直接伝達すればよい。声として認識されるようにな」
「どう見ても実際にしゃべってるようにしか見えないんだけど。……まさか、またからかってるんじゃないよね」
「……疑り深いやつだな。わらわにしてみれば、人間が普通にしゃべるのと同じ感覚だ」
「『一切を疑うべし』って教えたのはスフィーだよ」
「わらわの言ったのは方法的懐疑だ。中途半端な邪推ではない」
――たったいま眼鏡の事を疑ったスフィーとどう違うのだろう。
私の疑いのまなざしに、スフィーはやれやれと首を振って口を閉じる。そして――。
「――これで信じるか?」
そのまましゃべる。なんだか変な感じだ。
「……腹話術?」
「馬鹿者!」
口を閉じたまま怒鳴る。
「冗談だって。ちゃんと信じてるから」
さっきの仕返しに、ちょっと意地悪してしまった。
「考えてみれば、私にとってはどっちでもいいことだしね。普通に話すのと同じなんだし」
「『声』を伝える者を選べる点は少し違うがな。届く距離は人数に反比例して短くなるが」
「じゃあその場の全員に話しかけることもできるんだ」
「ああ、だがまずやらんぞ。正体がばれてしまっては、わらわとて依代や呪いの餌食になるかもしれんからな」
そっか……スフィンクスだからといって安全じゃないんだ。今は体はただの猫だし。
「じゃあ、今日は危険を承知で来てくれたんだ……私のために」
「だから真実のためと言っておろう」
ほんと素直じゃないなあ。
「――ん、誰か来たぞ」
そちらに目をやると、やってきたのはユイさん。
そういえば、いっきや愛子と違ってスフィーとは初顔あわせだ。
「ひねきち、やけに早いじゃない。人気のない所でひとりでうろうろしてると危ないわよ」
「ユイさんもひとりだけど」
時間もまだ少し早い。
「アタシはいいのよ。あんたみたいな大マヌケじゃないから」
「……もしかして、ユイさんも私を心配して早く来てくれたの?」
「――ひねり、己に都合のいい解釈ばかりするな」
口を動かさずスフィーが言う。ユイさんには聞こえていないようだ。
「なんでアタシがあんたの心配しなきゃなんないのよ。だいたい『ユイさんも』って何よ。他に誰もいないのに。透明人間でもいるっての?」
「うーん……まあそんなところかな」
「お、おどかさないでよ!……まったく、あんたたち三人組ときたら、そろって性格悪いんだから」
え――私も?
隣でうなずくスフィー。……自分だって性格悪いくせに。
「そういえば聞いたわよ。あんた久栖とやりあったって?」
「ええっ!? それはシゲ先輩の方だよ!」
「二人を一喝したって話じゃない。やっと正体を現したわね、この妖怪猫かぶり娘」
私は猫なんてかぶってない。
「――まあひねりは猫をかぶった鼠のようなものだな。『窮鼠猫をかむ』というであろう? おとなしい顔をして、追いつめられるとネズミのように力を発揮して相手をかむからな」
……私は目の前の猫にかみつくのを我慢して、次の新聞の一面にすると言うユイさんを必死に止める。
……でもあの新聞って確かペラ一枚だったから、載った時点で一面確定なんだけど。
「……ところで、さっきからいるこのハゲ猫は何?」
「――ハ、ハゲだと――!? この無礼者め!」
スフィーは怒ってユイさんを威嚇する。
「何よ、人間様にたてつこうっての?」
「あ、この子は私の飼い猫でスフィーっていうの。スフィンクスって珍しい種類なんだよ」
「あんたが苦労かけたから、毛が全部抜けちゃったのね」
「これはもともとこうなの!」
その時スフィーがユイさんをひっかこうとする。
「――だめ、スフィー!」
私はあわてて間に入る。
「ふん、まったく生意気な猫ね。やっぱりペットは飼い主に似るらしいわね」
「わらわがひねりに似ておるだと? おのれ、一度ならず二度までも侮辱しおって――!」
私に似てるのが侮辱って……。
私はスフィーを取り押さえて抱きあげておいた。それでもなお牙をむくスフィー。
「まったく可愛くないわね……あんたと同じで」
「ううん、いつもはかわいいよ」
もちろん私でなくスフィーが。
「ユイさんは猫とか飼わないの?」
「冗談じゃないわ。猫なんて飼ったら、部屋中小便臭くなるでしょ」
まずい……スフィーが怒りのあまりプルプルふるえだした。
「――おーい! 二人とも、待たせてごめん!」
いいタイミングでいっきと愛子が到着する。
「あ、すーにゃんも来てたんだ」
「スフィーちゃん、お久しぶりです」
不機嫌なスフィーは見向きもしない。私は急いで捜索の開始を提案した。
そして私達はおのおの分担通りに林を調べに行くことになる。
スフィーはまだご立腹だ。
「――あの無礼者! わらわが所構わず大小便を垂れ流すなどとぬかしおって!」
いや、ユイさんもそこまでは言ってない。
「こうなったら今からあやつの家に忍びこんで、寝床に大小便を垂れ流してくれる!」
それじゃ本末転倒だ。
私はスフィーをなだめながら林を歩いた。
――しかし昼間で明るいとはいえ、静まり返った林の中は結構不気味だ。
なんだかんだいって、スフィーがいてくれるおかげで気がまぎれているのは間違いない。そういう意味では感謝しないと。
私達は一応襲撃も警戒しながら捜索を続けた。
「……なんにもないね」
しばらく歩いたが、どこにも遺留品らしき物はない。
緊張状態ばかりが続いて何も見つからないのは結構つらい。
「身元がわかる物でも落ちてれば早いんだけどね……」
まあそう都合よくはいかないか。
私達はさらに歩き続ける。小さな物を見落とさないよう気を付けながら。
「……待て、ひねり」
突然スフィーが足を止めた。
「どうしたの?」
「――あの辺りを捜せ。細かい所まで丁寧にな」
あごで示す。……だがそこにはゴミが少し散らばっているだけで何もない。
確かにすぐ近くに座れそうな石はあるけど――。
「どうしてここが怪しいって思うの?」
「空き缶だ」
そういえば今まで空き缶など落ちていなかった。なのにここだけはいくつも落ちている。
「――あ、石の裏にもまだ落ちてるよ。確かに結構あるね」
それを見てスフィーが言う。
「……人数はおそらく二人、だな」
「どうして?」
「捨てられているのが同じ缶ばかりであろう? 紅茶とカフェオレの二種類だけだ。そして二つは同数ときておる」
私はざっと缶を数えた。――なるほど、紅茶とカフェオレの空き缶はそれぞれ同じ数だ。
「――ってことは、やっぱり南先輩がよくここを使ってたってこと?」
「まああくまで推測だがな。全く別の二人組だったり、あるいは一人や大勢が同じ物ばかり飲んだ可能性もないとは言えん」
「でも、ここに来てたのが二人組だとしたら、南先輩と裏の男の可能性は高いよね」
「うむ。……どこかにコンドームでも落ちておらんか?」
「こっ――!」
あやうく口にしそうになる。
「言うまでもなく、使用済みのやつだ」
「いきなりなに言いだすのよ!」
「大事だぞ。乱交でもなければ、まず人数が二人と特定できるからな」
ら、乱交って――!
「中学生相手にそんな言葉使わないでよ!」
「清純ぶっておる場合か。いいから早く探せ」
私はしぶしぶあたりを調べる。
だがさいわい――というかなんというか、そんなものは見つからなかった。
そのかわりスフィーが薄桃色のハンカチを見つける。
……まだかすかに香水らしき香りが残っている。どうやら女性の物らしい。
「これ、南先輩のかな?」
「この香水は南が使っていた物かどうかわかるか?」
――あ、そういえば――。
「体育倉庫で南先輩の肩をゆすった時、同じ匂いがしたよ」
「そうか。なら可能性は高いな。念のため家族にも確認させろ。高そうな品ゆえ、親が買い与えたのかもしれん」
と、スフィーが空き缶の底をのぞきこんで回る。
「賞味期限はまだ先だな……」
「だからって飲んじゃだめだよ」
「馬鹿者! わらわがそんなあさましい真似をするか!」
「じゃあ何で缶をひっくり返してるの?」
「一部の缶はかなりきれいで新しい」
あ――。
「一方、このハンカチもあまり汚れておらず、雨にぬれた様子もない」
「……つまり、二人は最近までここに来てたってこと?」
「そうだ。容疑者の中で、よく夜に出歩いていた者はおらぬか?」
「うーん、今まで調べた限りじゃ聞かなかったけど……頻繁に出歩いててもおかしくないのは久栖先輩くらいかな。けど、こっそり抜け出せば誰でも来れると思うよ。場所は林の中だし」
「ふむ……できれば相手側をもう少ししぼりこみたい所だがな」
私達は捜索範囲を広げ、念入りに証拠品を探した。しかし他には何も見つからなかった。
「……何もないね。他の所も調べないといけないし、そろそろ行こっか」
「ここから最短距離で林の外に出られる方角はどっちだ?」
「えっと――私達の来たのがこっちの方だから……。その向こう――だいたいあっちの方角に行けば道に出られるはずだよ」
「ではそのルートを調べるぞ。道に迷わぬようにな」
――そっか、裏の男はそこから入ってきた可能性が高い。夜の暗い林の中で、そんな複雑な経路を取るとも思えないし。
私達は再び林の中を歩き始めた。
「――?」
……今、胸元で何か光ったような……気のせいかな?
私は立ち止まって胸を見下ろす。
「……ひねり、いくら見つめた所で大きさは変わらんぞ。現実を受け止めろ」
「ち、違うよ! 今、赤い光が見えたような――」
「――ひねり、出してみせろ」
「ええっ!? こんな所で?」
いくら人がいないとはいえ、野外で出すのは……。
「どうした、早く出せ」
「スフィー、なんでいきなりそんなこと言うの?」
「確認するために決まっておろう」
「か、確認なんてしなくても――だいたいわかるでしょ?」
「正確に知るには直接見るしかなかろう。ごちゃごちゃ言わず早くしろ」
「うう……」
スフィーの剣幕に圧され、私はセーラー服に手をかける。
「……待て、なぜ脱ぐ必要がある」
「え、だって……」
「懐から引っ張り出せばよかろう。ネックレス一つ出すのに何を手間取っておる」
「えっ? ネックレスって……お母さんの形見の?」
「そうだ。他に何がある」
「なんだ、私てっきり……」
「何だと思ったのだ?」
「――な、何でもないよ」
「そういえば、まだ説明しておらんかったな。おぬしがしておるネックレスは『スフィンクスの涙』といって、わらわが昔
「そうだったんだ……」
私はネックレスを取り出す。付いているのは小さなピラミッド型の石。
「――あれ、透明だったはずなのに赤く光ってるよ」
石は、弱くゆっくり点滅している。
「これは呪いの力が強く働いておる場所に来ると、赤く光って報せてくれるのだ」
「それって、危険が近付いてるってこと?」
「うむ。だがまだ差し迫った事態というわけではないな。場所もここではないようだ」
「どんなことが起こるの?」
「具体的にはわからん。ただ呪いは原因を歪め、本来なかった結果を生み出そうとする。その『結果』が重大であるほど、大きな呪いの力が働く。スフィンクスの涙が反応するということは、呪いや依代が相当大きく動こうとしておる証拠だ」
「――私に対して?」
「いや、これは何かが起こる場所と時間を示しておるにすぎん。まあこんな所で何事かある以上、まず犯人側が何か動くのだろうがな」
「私はどうしたら……」
「まだ時間的余裕はあるようだ。まず場所を特定してしまおう」
私達は予定通り林の外の方へ向かった。どうやら光の強くなる方向に行けばいいらしい。
道々、スフィーはこのネックレスについて説明してくれた。
「スフィンクスの涙は対象者を呪いから護る聖なる石であるとともに、力の源でもある。過去視など呪いに対して力を使う際には、これを含めた三者を揃えねばならぬ」
「三者?」
「『スフィンクスの涙』、『スフィンクス』、そして『
「これがないとスフィーは力を使えないの?」
「うむ。今の体では力にも限界があるからな。スフィンクスの涙は必要な力を蓄えておくだけでなく、周囲から力を集めてくれるのだ」
これにそんな力があるなんて知らなかった。それでお母さんは肌身離さず持ってたのか。
その時、赤い光が強くなる。
「――ひねり、現場は近いぞ。場所を覚えておけ」
先に進むにつれて、光がさらに強くなってくる。
「……この辺りだな」
スフィーが立ち止まった。
「正確なの?」
「まあ正直かなり大まかだな。多少は誤差もある。呪いにも絶対的に未来を確定させる力はないからな」
今のところ辺りには何も目立った点はない。ただの静まり返った林の中だ。
「ひねり、ちょっと貸せ」
スフィーにうながされて、その首にスフィンクスの涙をかけてやる。
「どうするの?」
「呪いの力が頂点に達する時間を予測するのだ。それで事の起こる時間がだいたいわかる」
スフィーは目を閉じて集中する。
私は邪魔をしないよう静かにそれを見守る。
「……うむ、おそらくピークを迎えるのは、日付が変わってから丑三つ時までくらいか」
「その時間帯に何かが起きるんだ……」
「ああ、まず間違いない。光の強さから見ても、殺人級か、それに準ずる異変であろう」
「……かなり危険なんだね」
「うむ、危険極まりないな」
「じゃあスフィーは家で待っててね」
「――おい、まさかここに来る気か?」
「もしここで殺人が起こるなら放っておけないよ。他に誰もこの事を知らない以上、私しか防ぐ人はいないんだから」
「よせ、無謀すぎだ。死体が一つ増えたらどうする」
「それじゃスフィーは他人を見殺しにしろっていうの?」
「そうではないが、何もしないでいるのも重要な行動の一つだと言っておるのだ。危険を冒して来たからといって、防げるとは限らんのだからな」
「だからって知らん顔はできないよ。もし被害にあうのが知りあいだったらどうするの?」
「……それでもわらわは反対だ。たとえ薄情、冷血と言われようともな」
「なら私は賛成だよ。たとえ無謀、無鉄砲と言われようともね」
「……頑固だな」
「スフィーこそ」
「では妥協案として、この辺りで不審者を見たと匿名で警察に電話するのはどうだ?」
「それだと一人二人しか来てくれないだろうし、何時間もいてくれないかもしれないよ。匿名じゃいたずらの可能性が高いと思われちゃうし」
「……いらぬ所で頭が回るな」
「それにそうすると、深夜徘徊で補導されるから私が行けなくなっちゃうし」
「……意地でも来るつもりか」
「うん。ここで逃げたら、どんな結果になっても後悔しそうだから」
「だめだ、危険すぎる。後悔で済むなら安いものだ。諦めろ。退くのも立派な策だぞ」
「逃げてもいずれ呪いは私にふりかかるんでしょ? それどころか解決が遅れるほど危険は増してくるよね」
「それはそうだが……」
「逆に考えれば、これは証拠をつかむチャンスでもあるよ。これをのがしたらずっと解決できないかもしれないし、そうなったら結局危険だよね? もう脅迫もされてるし」
「その通りではあるが、危険度がかなり違うぞ」
「わかってる。でもこれ以上長引かせたくないの。解決が遅れれば遅れるほど、私だけでなくみんなも長く危険にさらされるんだから」
スフィーは黙ったまま考えこむ。
「それに、お母さんの時みたいに、何もできずに後でつらい結果だけ知るなんて嫌なの」
「……一つ約束しろ」
スフィーはあきらめたように言った。
「無理はするな。危険と思ったら、ためらわず逃げろ。退く事が最善の時もある」
返事を待たずスフィーは続ける。
「わらわは香を護れなかった。だから今度こそおぬしを何としても護らねばならぬ。それが香との約束でもある」
「……無理言ってごめん、スフィー。また心配かけちゃうね」
「何を言っておる。心配や迷惑などいつものことだ。そのつもりでおらねば、おもりなどできんからな」
スフィーはこちらに首を向け、スフィンクスの涙を外させる。
「それがあれば多少は呪いによる危険を緩和できるだろう。いつも必ず身につけておけ」
「わかった。何があっても外さないね」
「それと、わらわから絶対に離れるでないぞ。おぬしは夜目がきかんのだからな。指示には必ず従え」
「――スフィーも来てくれるんだ」
「……仕方なかろう。一人ではどんなヘマをしでかすかわからんしな」
スフィーはそっぽを向く。
「――さて、夜にここに来るなら、地形を頭に叩きこんでおかねばな。証拠捜しと併せてやっておくか」
私達は地形を覚えながら、裏の男の痕跡を求めて林を歩いた。
「……大体見て回ったけど、証拠は残ってないみたいだね」
「まあ単に通過しただけだろうしな。ハンカチが南の物であれば、警察が林を捜索するだろう。後は任せるとしよう」
集合時間が近付いていたため、調査を切り上げて待ち合わせ場所に戻ると、そこには既にユイさんが待っていた。
「ユイさん、何か見つかった?」
「なんにも。――あんたは?」
私はハンカチを見せ、スフィーの推理をそのまま伝える。
「それで、ハンカチが南先輩の物かご両親に確認したいんだけど……先輩の実家って遠いのかな? 住所はわかる?」
「うろ覚えだけど、県内じゃなかったかしら。詳しい住所は調べてみないとわからないわ」
「そんなに近いなら、どうして寮住まいしてたの?」
「南が親から離れたがって寮に入ったみたいね。まあ噂だけど」
そんな話をしているうちに、向こうから愛子が帰ってくる。そして互いに結果を報告しあう間にいっきも到着した。
「――結局収穫はハンカチだけでしたね」
「まあ上出来よ。これが南の物と特定できればね」
「ではお願いしますね」
「なんで当たり前のようにアタシに渡すのよ!」
「南先輩のご両親に確認したあと、ちゃんと警察に届けてくださいね。ネコババしたらだめですよ」
「子供におつかいを頼む母親みたいに言わないで!」
「わがままはいけませんよ。みんなのためなんですから」
「どう考えたって、主にあんたたちのためじゃない!」
「いやいや、これも正義とスクープのためだよ。タダさんがそれだけ有能で頼りになるってことだし」
見事なアメとムチのコンビネーション。
「仕方ないわね……まったく、これじゃ今日は大忙しじゃない」
ぶつぶつ言いながらもハンカチをしまうユイさん。……本当にいい人だ。
「それじゃアタシはもう行くわよ。誰かさんたちのおかげで、山ほど仕事ができたからね」
歩き出しかけ、すぐに足を止める。
「そういえば、ここに来る直前に小耳に挟んだんだけど、ノリと佐和先生がデキてるかもしれないって話があるのよ」
――デ、デキてる?
「時々あいびきしてるんじゃないかって噂よ。他には特に不審な点は見つからなかったけど、あんたたちで裏を取っておいてちょうだい。アタシは忙しくて無理そうだから」
そう言い残して去る。私はそれを見送ってから、ふと気付いた。
「――けど、まだ学校に人がいるかな? もうみんな帰っちゃったかも」
「そうかもしれませんね。ですがまだ誰か残っているかもしれませんし、とにかく行ってみましょう」
「よし! それじゃさっそく、教師と生徒のただれた関係を暴きに行くとしよっか!」
鼻息荒いいっきを先頭に、私達は林を後にする。
私は途中でふと立ち止まり、後ろを振り返った。今夜、またここに来なければいけない。
――ここで一体何が起きるんだろうか。……やっぱり不安になってしまう。
「――ひねり、やはりやめておくか?」
私はかぶりを振った。
「大丈夫、スフィーもついててくれるんだから」
スフィーに微笑みかけて、私は再び歩き出した。
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