12 暴力的解決
昼休み、再びシゲ先輩のクラスへ行く。
「――きゃっ!」
「わっ、ごめん……って、日根野さん?」
教室から飛び出してきたノリ先輩とぶつかりかける。かなりあわてている。
「どうしたんですか?」
「今トイレから戻ってきたら、シゲのやつが久栖に連れて行かれたって――」
「ええっ!?」
私達は急いで後を追った。
廊下にいた人に聞きながら一階におりる。どうやらついさっき外に出たらしい。
私達は校舎を出ると二手に分かれた。途中、通りかかった人に訊ねると、男子生徒を引きずるように体育館の方に連れて行った男を見たとのこと。
私は体育館に急ぐ。そして到着するや中をのぞいたが――誰もいない。
「てめえ――!」
どこかから怒鳴り声。これは……外から?
体育館の側面から裏に回りこむ。そこにはシゲ先輩の胸ぐらをつかんだ久栖先輩がいた。
「――梓に何をしやがった!」
「僕は何もしてない!」
「最近梓のまわりをウロチョロしてただろ! 何か知ってんじゃねえのか!」
「知らないって言ってるだろ!」
「とぼけるな! てめえがこそこそつきまとってたのは知ってんだ!」
「それは君の方じゃないか! もう別れたのに彼氏づらするなよ!」
「なんだと!?」
久栖先輩が拳を振りあげる。
「だめ――!」
止めようとしたが間にあわない。
頬を殴られ、転倒するシゲ先輩。
「――やめてください!」
すくんだ足に鞭打って、間に入る。
「じゃまだ! どけ!」
「……久栖」
立ち上がったシゲ先輩が低く、怒りのこもった声で言う。
「――おまえが南さんを殺したんだろう」
「……てめえ、今なんて言った?」
「簡単に人を殴るようなやつ、逆上して人を殺してもおかしくない! おまえが南さんを殺したんだ!」
「ふざけるな! こそこそ女をつけまわす野郎こそ、何をしてもおかしくねえ!」
私を押しのけ、肉迫しようとする二人。
「――もうやめてください!!」
私はあらんかぎりの声で叫んだ。突然の大声に、二人は一瞬動きを止める。
「シゲ先輩、聞きたい事があります!」
その隙に有無を言わせず問いかける。
「先輩が夜間に女子寮で目撃されたとの情報があります。本当ですか?」
シゲ先輩は顔をそらし、気まずそうに言った。
「――それは本当さ。でも――」
「最近南先輩のまわりをうろついていましたか?」
うなずく。
「どういう理由でですか?」
「もちろん好きだからさ。告白するタイミングも探してたし……」
「夜に、男子禁制の女子寮に行ってまで?」
無言。
「シゲ先輩は今回の事件に少しでも関わっているんですか?」
「関わってない。本当だよ」
私は先輩の目を見て言う。
「もし今の証言に嘘があったら、犯人や共犯者と思われると承知の上ですね?」
うなずく。真剣な顔で。
「先輩が本当に何もしていないなら、疑いを晴らすために何もかもつつみ隠さず言ってください。知っている事はすべて」
「――僕は本当に何もしてないし、事件にも関わってない。たしかに女子寮まで行ったのは度が過ぎてたけど……ただ近くにいたかっただけなんだ」
先輩はそう言ってうなだれる。
「寮には何回行ったんですか?」
「五、六回かな。最後に行ったのは事件の前日だよ。ふられた後だったけど、あきらめきれなくて……でも、南さんはいなかったよ」
「――いなかった?」
女子寮は夜間外出禁止のはずだ。
「それは何時頃ですか?」
「十時過ぎぐらいかな。部屋の電気が消えてたから」
「早めに寝ただけなんじゃないですか?」
その疑問に久栖先輩が答える。
「あいつがそんな時間に寝るなんてありゃしねえよ。いつもベッドに入るのは日付が変わってからだぜ」
「じゃあ他の人の部屋に遊びに行ってたとか――」
「それも多分ねえ。寮のやつらとは仲が悪かったからな。それにあいつ、抜け出す方法を知ってたみてえだから、夜に出かけたとしてもおかしくねえ。実際、昔何度も俺と会ってたしな」
「多分南さんはいなかったと思う。前にも一回、九時頃からずっと電気が消えてたことがあったし、それに――」
一瞬言葉を切る。
「――僕、抜け出す現場を見たんだ」
「えっ……いつですか?」
「初めて女子寮の前に来た時さ。十時前頃だったか、南さんが出てきたんだ」
「はっきり確認したんですか?」
「明かりのついた窓の近くを通った時、顔を見たんだ。間違いない」
なるほど……常習的に抜け出していたのだろうか。
「それで僕、あとをつけたんだけど、南さんは学校の裏の林へ入っていったんだ」
そんな時間にあの林へ? あそこには特に何もなかったはずだけど――。
「でも、そこで見失った。あまり近付くわけにもいかないし、暗かったから」
「どこに向かったかわかりますか?」
「見当もつかない。その後もしばらく捜したけど、見つからなかったし」
人目を避けるために通り抜けただけだろうか? でもあそこを抜けても、やはり何もなかったはずだ。かなり大回りしないかぎり。
「その事があって以来、気になって何度も様子を見にくるようになったんだけど……抜け出す現場を見たのは、その一回きりだった」
「……久栖先輩、何か心当たりはありませんか?」
「ねえな。だがそりゃおそらく、あいびきってやつだな」
「あ、あいびき?」
「前に俺と街で待ちあわせた時は、学園を抜け出すのに林なんて通らなかった。となりゃ、その林自体が目的地ってことだろ」
確かにこの辺りで人目を忍ぶ場所といえば、その林が一番近い。
「やっぱり裏の男――恋人と逢ってたんですかね……」
「まああいつがそんな時間にすすんで逢いに行くなんざ、恋人ぐらいのもんだろ。五月が呼んでさえ、夜に抜け出してまで行くか怪しいもんだ」
南先輩は裏の男と逢う時、いつもあの林を使っていたんだろうか。
……今日にでも一度調べてみようか。
私はシゲ先輩が他に情報を持っていないことを確認して、急ぎみんなに報告に……おっと、その前に。
「――二人とも、もうケンカはだめですよ!」
釘をさしておく。
「真相は必ず私が突き止めて見せますから!」
あっけにとられる二人を残して、私は部室に駆け戻った。
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