8 連れさられた不審者
放課後、私達三人は部室に集まった。
愛子といっきによる現場一帯の調査では何も得るものがなかった。まあ警察が調べた後なんだし当然か。
「あとは聞き込みとあわせて、事件前後の不審者の有無を調べようと思うのですが……」
「あ、ごめん。私このあと、また警察で事情聴取があるんだ」
面倒だけど、今から出頭しなきゃいけない。
「まったく、何も知らない少女をいたぶるなんて、警察もヒマな事するねー。こりゃ、あたしたちが解決しないと迷宮入りだな」
「それでは私といっきで捜査を進めておきますね」
「うん、お願い。じゃあ行ってくるね」
「おつとめご苦労さまです!」
いっきの敬礼に送られ、廊下に出ようとした時――。
「――きゃっ!」
「わわっ!?」
中に駆けこもうとしたユイさんと衝突する。
私は扉をつかんでいたためなんとか踏みとどまったが、はじかれたユイさんは物の見事に転んで廊下をすべる。
「――なにすんのよ、ひねきち!」
「ご、ごめんなさい――」
「あはは、パンツ丸見えー」
「見事なすべりっぷりでしたね」
「うるさい、この疫病神ども! せっかく急いで大ニュースをもってきてやったのに!」
「大ニュース?」
「三年の若藤経主が、いま警察に連行されそうになってるのよ」
「えっ!? 若藤って――ノリ先輩!?」
「そうよ。事件のあった時間帯、学園付近にいたんですって。近所の人が目撃したそうよ」
「あんな早朝に? どうして?」
「知るもんですか。部活にも入ってなかったし、どう考えてもおかしいわね」
「ノリ先輩、もう警察に行っちゃったの?」
「まだ校門のあたりにいるかも。行くなら急いだ方が――」
私はその言葉が終わるより早く駆け出した。
その時ユイさんにぶつかったような気がするけど緊急事態なので許してもらう。……ついでに言えば転倒してたような気もするけど許してもらおう。
私が校門に着くと、そこにはノリ先輩と先生と警察の人がいた。
先生はあの朝私と一緒に体育倉庫に行ってくれた人――確か
「若藤はそんなこと――!」
「ただお話を伺うだけですから――」
どうやらノリ先輩をかばっているらしい。
先輩はその傍らに、ばつが悪そうに立っている。
「ノリ先輩――!」
先輩は私と目があうと、いたずらした所でも見つかったように苦笑いした。
だが私が質問する間もなく、ノリ先輩は警察に連れて行かれてしまった。もちろん任意ではあるけど。
私はただそれを見送って――って、私も警察に行くんだから見送っちゃダメじゃん!
しかし時すでに遅し。取り残された私は、とぼとぼと警察まで歩いた。
署に着くと、ただちに聴取が行われた。もちろんノリ先輩とは別々だ。
質問はあいかわらずうんざりするものだった。前に訊かれたのと同じ事ばかり。
だがわずかながら新しい事もあった。ノリ先輩について訊かれたのと、レンガについてだ。
レンガは血痕のついたもので、どうやら五月先輩宅で見つかったものらしい。
これが五月先輩が持っていたレンガかと訊かれたが、レンガなんてほとんど同じだし見分けなんてつかない。血が付いている以上まず間違いないだろうが、断言はできなかった。
そしてようやく聴取が終わる。私は急いで受付に行き、ノリ先輩の事を訊ねた。が、まだ取り調べが続いているとのこと。
「――あ、ノリ先輩!」
私が待ち続けていると、先輩が姿をあらわした。あわてて駆け寄り、前置きもなく事情を訊ねる。先輩は疲れた様子だったが、それに答えてくれた。
「……実は事件の前日、呼び出しの手紙を受け取ってたんだ。それであんな時間に学園に行ったんだよ」
「呼び出しって、誰からですか?」
「――五月さんさ」
「五月先輩が? どうしてノリ先輩を?」
「理由はわからない。書いてなかったから。てっきり愛の告白かと思ったんだけど……」
「どんな手紙だったんですか?」
「現物は今警察に渡しちゃったけど――中身はこうだったよ。『とても大事な話があります。二十日の朝七時に体育倉庫に来てください』」
そして署名は五月里。宛名は若藤経主様。
「……本当に五月先輩が送ったものなんですか?」
「わからない。下駄箱に入ってただけで、本人には確認できなかったから」
では偽造の可能性もあるということか。
「――先輩、何時頃学園に着きましたか?」
「七時になるかならないかぐらいだと思う。もう警察が来てて、近所の野次馬も集まり始めてた。その時事件の話を聞いて、オレが疑われるんじゃないかと思って黙ってたんだ」
私が警察を呼んだ後か。犯行時刻はたぶん六時二十分頃だから――。
「じゃあ、南先輩の死体――は見てませんよね」
「もちろんだよ! そんなの見てたら、さすがに警察に言うさ!」
「他には何も見てませんか? 怪しい人とか、不審な事とか」
先輩は首をふる。
……だめか。
呼び出しの手紙も確認してみたいけど、現物が警察じゃしょうがない。これ以上新しい情報もなさそうなので、ここらで切り上げることにする。――正直私も疲れた。
私はノリ先輩が送ってくれるというのを断って家路についた。
その間、ずっと新たな疑惑を抱えたまま――。
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