6 暗中模索
「えっと……ここが三年四組か……」
私は聞き込みのため、まず被害者である南先輩のクラスにやってきた。
もうあまり時間はないが、始業までの間、三人で手分けして捜査をすることになった。いっきと愛子には資料室で南先輩と五月先輩の事を調べてもらっている。
「なんか入りにくいな……」
教室にはもうかなり生徒が集まっていた。当然、中は先輩ばかりだ。
「――ねえねえ、どうしたの? キミ、新入生?」
そこに声をかけてきたのは、三年生らしき男子生徒。さわやかな感じではあるが、なんだか軽そうな人だ。
「迷ったなら、案内してあげようか。オレ、
「あ、あの私一年の日根野といいます。実は南先輩の事でお話を伺いたいんですが……」
「南? いいけど……アイツの知りあい?」
「いえ、新聞部の取材で……」
「ああ、そうなんだ。で、何がききたいの?」
「何でもいいんですが、できるだけ詳しくお願いします。性格とか、友人関係とか、もめていた事とか……他にも異変や気付いた事があれば」
「うーん、そうだな……大人っぽいというか、見た目は派手そうな感じかな。わがままな所もあったし」
「そうなんですか……」
確かに写真で見ても、なんとなくそんな感じだった。
「あと、わりとキツいね。このクラスになった時デートに誘ったら、ひじうち食らったし」
それは単に自分が悪いんじゃ……。
「遊んでそうに見えて、意外とそうでもない感じだな。まあ短い間の感想だけど」
「友達は多かったんですか?」
「少ないね。ただでさえ目立つタイプなのに、気性が激しくて人当たりが悪かったから、評判はあまりよくなかった。特に女子から」
じゃあ、やっぱり五月先輩とも仲が悪かったのかな……。
と考えた時、ノリ先輩から意外な言葉が飛び出した。
「親友と呼べるのは、一緒に行方不明になってる五月っていう子くらいじゃないかな。オレの知ってるかぎりでは」
「え……二人は仲がよかったんですか?」
「ああ、確か前は同じクラスだったと思ったけど」
だとしたら、二人の間に何があったんだろう。
「でも、どうも五月さんは手下みたいに扱われてたって噂を聞いたことがあるけど」
それが本当なら、あるいは恨んでたのかも――。
「五月先輩はそれに対してどうだったんですか」
「うーん、おとなしい子みたいだったし、喧嘩になったって話は聞いたことないな。関係もわりと長く続いてるみたいだし、うまくいってたんじゃないの?」
「最近変わった様子はなかったですか?」
「見た範囲ではなかったね。そこまで注意してたわけじゃないけど、あからさまに変だったり、もめてたりって事はないな」
「他に南先輩と親しい関係の方はいませんか?」
「いないと思うけど。教室でもほとんど一人だったし……あ、そういえば今は別れたみたいだけど、彼氏がいたらしいね」
「え、誰だかわかりますか?」
「なんていったかな……確か五組の不良だよ」
そう言って五組の教室に向かう。
「ほら、アイツ。
指差したのは、目つきの鋭い、明らかに悪そうな感じの男子生徒。
「あの、お話を聞くことはできませんか」
「……やめといたほうがいいと思うけど」
だが私が頼みこむと、ノリ先輩はしぶしぶ承知してくれた。二人で教室に入る。
「おーい、久栖。新聞部の子が南さんの話を聞きたいってさ」
「……あぁ? なんだ、てめえ」
私をにらんで言う。
……こ、こわい。
「あ、あの南先輩のお話を伺いたいんですが……」
「梓の事は、てめえにゃ関係ねえだろ。こそこそかぎまわるんじゃねえよ」
「すみませんが、そこをなんとか……」
「うるせえ、帰れ!」
一喝され、クラス中の視線が集まる。ノリ先輩があわてて間に入る。
「まあまあ、この子も好きで聞いてるわけじゃないんだし、カンベンしてやってよ。……それじゃ失礼」
言いながら、私の袖を引いて教室を出る。
「やっぱまずいよ。アイツも元とはいえ彼女が行方不明になって気がたってるみたいだし」
「……そうですね……出直すことにします……」
「まあまた何かあったら言ってよ。できるだけ協力するから」
「はい、ありがとうございます。それじゃ」
頭を下げてその場を去る。
……前途多難だ。
と、そこで予鈴が鳴った。続いて放送が入り、一時間目は臨時の全校集会になるとの事。
――やっぱりあの事件の話だろうな。
私は重くなった足に喝を入れ、廊下を駆け出した。
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