2 消えた死体

 私は体育倉庫から飛び出した。

「誰か……誰か!」

 だが早朝の校庭には誰もいない。

 ――そうだ、職員室!

 私は全力で駆け出す。おそらく人生で一番の猛ダッシュ。

 校舎内に突入するや、土足のまま廊下を突っ走る。しかし左に曲がれば職員室という所で、減速しきれず壁に激突しかけた。

 なんとか壁にソフトランディングして左右を確かめると、右手の駐車場側出口に向かう先生らしき人影。

「――あの、待ってください!」

 あわてて呼び止めて駆けよる。三十がらみの、線の細い男の人だった。

「すみません、先生ですか?」

「そうだけど――君は?」

「私、一年三組の日根野ひねのです。じつは今――」

 あわてて状況を説明する。

 先生は驚いた様子だったが、すぐに私と体育倉庫に向かってくれた。

 しかし――。

「あれ? えーと……」

 先程あったはずの死体がない。あるのはただ先生の疑いのまなざし。

「……まさか君、からかったんじゃ――」

「違います! 本当に見たんです!」

 確かにここに――。

 と、私は床に残った血を見つける。それを見て、先生の顔も険しくなった。

 私達は倉庫内をくまなく調べたが、元々死体を隠せるほど広くもないので、やはり何も見つからなかった。外に出て倉庫の回りも確認したが何もない。もちろん校庭は一目瞭然だ。

 先生はしばし考えこんだ。

「――よし、手分けして捜してみよう。君は校舎内を頼む。僕は校舎外を見てくる」

 先生が校舎裏へ行くと、私も校舎に入って教室をのぞいてまわった。が、一階には何もなく、次は上の階に行くか隣の校舎に行くか悩んでしまう。

 ……果たして死体をかついでわざわざ二階へ上がるだろうか? 絶対にないとは言えないけど――。

 私はとりあえず他の校舎の一階をざっと見て回った。だが何も見つからない。

 次は上を捜そうかと思った時、私は重大な事に気付いた。

「……そうだ、警察!」

 このまま捜すにしろ、警察には連絡しておかないと。

 私は電話を借りに職員室へ急いだ。先生は誰もいなかったが、緊急事態ということで勝手に使わせてもらう。

 警察に事情を説明すると、すぐに来てくれるとの事。

 私は受話器を置くと次の行動を考えた。

「……そういえば、先生の方はどうだったかな」

 正直外のが可能性が高いと思うので、一緒に捜した方がいいかもしれない。

 私が外に出ると、校舎裏からちょうど先生が戻ってきた。だが収穫はなし。私は警察に連絡したことを告げておいた。

 先生は念のため学園の外を捜しに行き、私は校門で警察を待つ。

 まもなくして、パトカーが到着した。

 私は警察の人を現場まで案内し、状況を説明した。死体はなかったが血痕が残っていたため、やがて本格的な捜査が始まった。

 そして私は、事情聴取という名目で警察に連行されることになったのだった……。

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