1 血染めの誕生日

「お父さん、ひどいよ! いつもそうじゃない!」

 ――気にしないで。仕事がんばってね。

 そう言うつもりだった。

 だが口をついて出たのは正反対の言葉。認めたくはなかったが……私のもう半分の本心。

 ――今日は四月二十日。私の誕生日。

 だがお父さんは今夜も仕事で帰ってこれないと言う。

 それが仕方のないことなのはよくわかっていた。申し訳なさそうに謝るお父さんを見て、私の心も痛んだ。それでも今は素直に言葉が出てこない。

 私はいたたまれなくなって家を飛びだした。お父さんのせいでなく、私自身への嫌悪から。

「……はぁ……なんであんなこと言っちゃったんだろ」

 私はためいきをつきながら通学路を歩く。

「学校へ行くにはまだ早いよね……」

 時刻は午前六時をまわったところ。こんな時間に登校してもやることはない。

「――あ、そういえばもう仮入部始まってたっけ……」

 この春、無門むもん学園中等部に入学し、セーラー服もまだなじまないうちに仮入部期間は始まった。私はどこの部に入るか決めかねていた。

「まだ朝練もやってない時間かな……」

 私は見学させてもらういい機会だと気持ちを切りかえ、慣れない通学路を歩いた。

 そしてまもなく無門学園に到着する。当然中に人は見当たらない――と思いきや。

「あれ……?」

 校舎に向かう途中、校庭の隅にある体育倉庫から人が出てくるのが見えた。

 その眼鏡の女子生徒は後ろを気にしながら、あわてた様子でこちらに目もくれず走ってくる。その手にはレンガが握られていた。

 レンガを持って走る眼鏡の少女……なんだかシュールだ。

 って――。

「あれってもしかして……血!?」

 レンガには血のようなものがべっとりと付いていた。

 その時、少女がこちらに気付く。必死の形相。

 こ、殺される――。

 が、私が逃げだすまでもなく、少女はこちらを大きく避けて校門へ走っていった。

 ……い、今のなに?

 どうしていいかわからず、ただ呆然と見送る私。

「……あの人、体育倉庫から出てきたけど……」

 すごく嫌な予感がしたが、見なかった事にするのも勇気がいる。

 それならいっそ――。

 そっと近付き、中をのぞく。

 そこには……頭から血を流した女子生徒が倒れていた。

「――だ、大丈夫ですか!?」

 まったく反応がない。

 おそるおそるしゃがんで、そっと肩をゆする。

 ……ぴくりとも動かない。

 ま、まさか――。

「死んでる……!?」

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