概要
退職者名簿に「在籍中」の社員がいた。消された誰かの、静かな告発。
退職者名簿に、埋まりすぎた空欄があった。
労務コンサルタントの来栖澪は、六稜物産の人事監査で、奇妙な社員を見つける。芦田尚人、営業三課、在籍中。だが、社内の誰も、彼の顔を思い出せない。
給与だけが、五年間、律儀に振り込まれ続けている。
調べるほどに、名簿の奥から、もう一つの名前が浮かび上がってくる。二十三年前に処理された、氷室律。そして、その名前を知る者は皆、口を揃えて言う。「詳しいことは、私も知らないんです」と。
誰も嘘はついていない。ただ、誰も、本当のことを言わない。
悪意なき継承。それが、この会社を七十年にわたって支えてきた仕組みの正体だった。
書類の上に空白を作り、そこに人を生かし続ける。あるいは、消し続ける。
澪が名簿の奥へ踏み込むほどに、加害者と被害者の境界は溶けていく。誰かを守
労務コンサルタントの来栖澪は、六稜物産の人事監査で、奇妙な社員を見つける。芦田尚人、営業三課、在籍中。だが、社内の誰も、彼の顔を思い出せない。
給与だけが、五年間、律儀に振り込まれ続けている。
調べるほどに、名簿の奥から、もう一つの名前が浮かび上がってくる。二十三年前に処理された、氷室律。そして、その名前を知る者は皆、口を揃えて言う。「詳しいことは、私も知らないんです」と。
誰も嘘はついていない。ただ、誰も、本当のことを言わない。
悪意なき継承。それが、この会社を七十年にわたって支えてきた仕組みの正体だった。
書類の上に空白を作り、そこに人を生かし続ける。あるいは、消し続ける。
澪が名簿の奥へ踏み込むほどに、加害者と被害者の境界は溶けていく。誰かを守
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