概要
陸上の怪我で走る目標を失い、逃げるように研修旅行に参加した純。早朝のケアンズ国際空港に降り立つと、極彩色のロビー、ねっとりと甘い湿気、強烈な日差しが、日本に置いてきたはずの迷いまで照らし出す。そこで出会った紗智もまた、進路を前に立ち止まっていた。周囲の期待に応える「良い子」を演じ、自分が何を望むのかさえ言えずに。
青い蝶ユリシーズ、熱帯雨林、グレートバリアリーフの海。使い切りフィルムカメラに光景を残しながら、二人は互いの痛みに触れていく。純は怪我の真相を語り、紗智は胸の奥の息苦しさを明か
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- ★★★ Excellent!!!フィルム残り五枚で切り取る、一九九五年ケアンズの三週間
第5話までを拝読しました。足首の怪我で走る目標を失った純と、「NOって言えない性格」で部活も恋も寄り道だと自分に言い聞かせる紗智。二人の出会いが、派手な事件ではなく、突き指を冷やす水飲み場で缶ジュースを差し出すだけの場面なのが、とても良いと思いました。バタークリームのケーキ、取っ手のない熱いラテ、八品以下専用のレジ、トイレットペーパー作戦の後に本物の手錠をかけて笑う警官と、一九九五年のケアンズの手触りが細部まで積み上げられていて、研修旅行の記録を一緒に辿っているような気持ちになります。キュランダ鉄道の第5話で、脱線騒ぎの最中に紗智だけが窓の外の滝を見ていて、気づけば純の隣で同じ窓を分け合って…続きを読む
- ★★★ Excellent!!!この先の十年が気になる。ちょっと昔の平成が舞台の青春恋愛物語です。
目標を失った高校生と、自分の望みを言えずにいる同級生が、海外研修で心の距離を縮めていく青春恋愛小説です。
三週間の旅程と淡い感情の芽生えが重なり、観光の一日一日が二人の変化へつながっていくところが印象的でした。
同じように競技を離れた二人の痛みを、安易に同じものとして扱わない点に人物設定の魅力があります。
事情の違いが明らかになるにつれ、理解したい気持ちと踏み込むことへのためらいが生まれ、静かな緊張を保ちながら関係が動いていきます。
また、一九九五年のケアンズが恋愛の背景にとどまらず、心をほどく場所として働いています。二人にとって非日常の、強い日差しや湿気、鮮やかな生き物に加え、紙の地…続きを読む - ★★★ Excellent!!!「恋は寄り道なの」十年分の歳月と切ない記憶が胸を打つ純愛譚。
「『恋は寄り道なの』その言葉に僕たちは十年を縛られた」という深く胸を突くキャッチコピーから幕を開ける、非常にエモーショナルで切ない恋愛小説です。
本作の最大の魅力は、過ぎ去った十年の歳月の中で、登場人物たちの心に刻まれた「あの日の言葉」や記憶がどのように澱のように沈み、そしてどう響き合っていくのかという、圧倒的に繊細な心理描写にあります。単なる甘いラブストーリーにとどまらず、時の流れがもたらす距離感や、当時の選択、そして言葉にしきれなかった想いの重みがリアルに表現されており、ページをめくる手が止まりません。
連載が進むにつれて深まる人間模様や、登場人物たちが抱える過去の背景がどのように紐…続きを読む