概要
妻は執刀医である私の両手を容赦なく砕いた
ドイツの大学病院で二年間の研究留学を終え、東京へ戻ってきたとき、妻のそばには見知らぬ男がいた。
僕はもともと神谷直人という。東京の私立大学病院で心臓血管外科の講師を務める、心臓血管外科専門医だ。結婚するときに妻の姓である月城を選んだため、戸籍上は月城直人になったが、病院や学会では以前から使っていた「神谷」の姓をそのまま使用している。そのため、同僚も患者も今までどおり僕を「神谷先生」と呼んでいた。
妻の玲奈は月城家の娘だ。月城ホールディングスは東京証券取引所に上場する大手企業グループで、玲奈の父は代表取締役会長を務めている。玲奈自身も取締役であり、グループが長年支援してきた月城文化財団の理事でもあった。
僕たちの夫婦関係がおかしくなり始めたのは、一ノ瀬奏真が現れてからだった。
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