概要
あなたの名前を、菓子の銘にした。
和泉棗は、老舗上生菓子店のひとり娘。
幼い頃から「看板娘」として写真を撮られ続け、完璧な笑顔の作り方だけを覚えてきた。店を継ぐことは決まっている。ただし棗に割り振られたのは"顔"の役割だけで、意匠を考えることも、自分の菓子を作ることも許されていない。誰にも見せないスケッチ帳の中にだけ、作れないままの意匠が溜まっていく。
商店街の記録事業でやってきた撮影担当・東雲澪は、取材が終わって誰もいなくなった座敷で、棗の笑顔が落ちる瞬間を見てしまう。
「——今の、撮ってないから」
澪は淡々とそう告げて、こう続けた。次は、ちゃんと撮らせて。今のじゃなくて。
見抜かれる側になったのは、初めてだった。
撮ろうとすると消えてしまう顔を追う澪と、見られることに慣れすぎた棗。ファインダー越しの距離が少しずつ縮まって
幼い頃から「看板娘」として写真を撮られ続け、完璧な笑顔の作り方だけを覚えてきた。店を継ぐことは決まっている。ただし棗に割り振られたのは"顔"の役割だけで、意匠を考えることも、自分の菓子を作ることも許されていない。誰にも見せないスケッチ帳の中にだけ、作れないままの意匠が溜まっていく。
商店街の記録事業でやってきた撮影担当・東雲澪は、取材が終わって誰もいなくなった座敷で、棗の笑顔が落ちる瞬間を見てしまう。
「——今の、撮ってないから」
澪は淡々とそう告げて、こう続けた。次は、ちゃんと撮らせて。今のじゃなくて。
見抜かれる側になったのは、初めてだった。
撮ろうとすると消えてしまう顔を追う澪と、見られることに慣れすぎた棗。ファインダー越しの距離が少しずつ縮まって
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