概要
俺が選ばなかった世界で、母は『おかえり』と言った
中学三年の夏。父の再婚を機に、香月渉はひと夏を郷里の祖母の家で過ごすことになった。両親の離婚で父を選び、母とこの町を捨ててから、二年半。
夕方、川沿いの土手道で、渉は一人の少年とすれ違う。同じ背格好、同じ歩き方、左の眉の傷痕まで同じ、俺の顔。すれ違いざま、そいつはニヤッと笑い、低く何かを囁いた。
祖母の家を訪ねると、迎えてくれるはずの祖母は血相を変えて渉を叩き出した。「今ごろになって、なんしに来たとか!」。途方に暮れた足が勝手に向かったのは、かつて家族で住んだ家。その門前で、買い物袋を提げた母は、二年半ぶりの息子に、ただこう言った。
「そげんとこでなんしよっと? はよ入り」
ここは、渉が選ばなかったほうの世界。母を選んで町に残った、もう一人の「渉」の世界だった。
夕方、川沿いの土手道で、渉は一人の少年とすれ違う。同じ背格好、同じ歩き方、左の眉の傷痕まで同じ、俺の顔。すれ違いざま、そいつはニヤッと笑い、低く何かを囁いた。
祖母の家を訪ねると、迎えてくれるはずの祖母は血相を変えて渉を叩き出した。「今ごろになって、なんしに来たとか!」。途方に暮れた足が勝手に向かったのは、かつて家族で住んだ家。その門前で、買い物袋を提げた母は、二年半ぶりの息子に、ただこう言った。
「そげんとこでなんしよっと? はよ入り」
ここは、渉が選ばなかったほうの世界。母を選んで町に残った、もう一人の「渉」の世界だった。
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