書道部編 体験入部

ましゅまろ・るぅむ

第1話

雪奈は入学直後。

部活見学週間。

ーーー

「天宮さん、字きれいだよね」

七海が言う。

「そうかな?」

「そうだよ。ノートとか見やすいし」

そこへ。

書道部員が勧誘に来る。

「よかったら体験どうですかー!」

ーーー

書道室。

墨の匂い。

静かな空気。

雪奈は少しワクワクしていた。

「面白そう!」

肩の上ではルーモとネルモ。

「字なら雪奈得意そう」

「むしろ危険な予感しかしない」

ーーー

お題は一文字。

『空』

顧問が言う。

「上手い下手じゃないよ」

「自分らしく書いてみて」


みんなが書き始める。

雪奈も筆を持つ。

スッ。

サラサラサラ。

完成。

ーーー

顧問が順番に見て回る

「お、いいね」

「力強い」

「柔らかいなぁ」

そして雪奈の前で止まる。


「……え?」


静まり返る書道室。

雪奈がビクッとした。

「な、なにか?」

「いや……」

顧問は紙を二枚並べた。

ーーー

「同じなんだ」

「へ?」

ーーー

一枚目。

最初に書いた『空』

二枚目。

練習用に書いた『空』

ーーーーー

完全一致。

ーーーー

線の太さ。

ハネ。

払い。

墨の滲み。

かすれ位置。

全部同じ。

ーーー

「コピー……?」

誰かが呟く。

「いや、手書きだぞ」

ーーー

顧問も首を傾げる。

「普通は少し変わるんだけどなぁ」

ーーー

雪奈、冷や汗。

(やばい)

(またやった)


肩の上。

ルーモ。

「雪奈」

「うん」

「誤差ゼロ」

「知ってる!」

ーーー

ネルモ。

「二枚とも同じ角度、同じ速度、同じ筆圧」

「言わないで!」

ーーー

顧問が興味深そうに言う。

「じゃあもう一回」

ーーー

雪奈。

絶望。

ーーー

三枚目。

四枚目。

五枚目。

ーーー

全部同じ。

ーーー

書道部員。

「すごっ」

「スタンプみたい」

「人間コピー機じゃん」

ーーーーー

雪奈の顔から血の気が引く。

ーーーーー

しかし。

そこへ助け船。

ーーー

七海が言った。

「いや、でもさ」

「書道って心が出るんじゃないの?」

ーーー

全員が見る。


「天宮さん、毎回同じ気持ちなんじゃない?」

沈黙。

顧問。

「……なるほど」

ーーー

書道部員。

「深い」

「芸術だ」

「ブレない心か」

ーーー

雪奈。

(助かったぁぁぁぁ!!)

ルーモ。

「偶然って便利だね」

ネルモ。

「人類は勝手に納得する」


ーーー

その日の帰り。

「書道部どうだった?」

七海が聞く。


雪奈は遠い目で答えた。

「二度と体験しない」

ーーー

そして後日。

書道部には伝説が残る。


『五枚連続で全く同じ作品を書いた天宮雪奈』


ただし。

誰も知らない。


坂本だけは…

展示された五枚を見て。


「……またお前か」


一人だけ。

頭を抱えていた。

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