レモネードの使い方がすてきです。かつて砂糖抜きで差し出された“苦い記憶”を、春香が今度は砂糖たっぷりで返してくる。この反転が、そのまま二人の関係の答えになっています。溶け残る砂糖も、無言の感情のシンボルで。また、桜が颯太を土地と役目に縛るシンボルとして機能しています。「そばに人がいなくなったら、枯れるんだよ」という台詞は切ない。最後にようやく甘さを知るレモネードの後味まで含めて、ゆったりしているのに、柔らかいパンチがあるような作品でした。
春の空気と桜の気配が行間から立ちのぼる、美しく切ない短編でした。レモネードの甘さと酸っぱさが、そのまま二人の思い出や言えなかった気持ちに重なっていて、とても印象的です。誰しも一度は経験したような、言葉にできずに過ぎてしまった想いに共感しながら読みました。派手な展開はないのに、最後の一行まで静かに胸を締めつけられます。読後、甘すぎるレモネードの味だけがしばらく残るような、素敵な作品でした。
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