最終章

 お囃子の音が、遠く近くに聞こえる。

 ぼんぼりが夜の闇にぼうっと浮かび上がる。わたあめや焼きそばの屋台。


 むせるような人込みの中で、わたしとリョウ君はきょろきょろと、人探しをしていた。

「ミカちゃんたち、どこに消えたんだろ」

 青い線の甚平姿のリョウ君が、パタパタとうちわであおぎながら

「まあ、たぶん遠くには行ってねえ。オレたちはオレたちで回ろうぜ」


 ママから花火大会に行く許可が下りたのは二日前。白地に朝顔の柄の浴衣を着せてもらい、髪を結いあげた。

 メンバーはわたしとリョウ君とミカちゃんと高山くん、そして保護者であるミカちゃんの大学生のお姉さん・美咲さん。


 わたしは息を吐いた。

 のんきだな。非常事態なのに。

「そうだね。メッセージ入れとく」

 スマートフォンを取り出した時だ。20代くらいの女の人が手前から友達とはしゃぎながらやってきた。明らかにこちらを見ていない。ぶつかりそうになって、よろめく。


 がしっ。

 左手を掴まれた。――え?

「まったく」

 リョウ君はわたしからそっぽを向く。

「やっぱり、ひとりでの夜間外出は禁止だな」

「って、手、手!」

 つないでるんですけど!

 すっごく自然に、掴まれたんですけど!


 ていうか、手ってこんなに熱いの。

 女の子と違って、固いし。


「このままじゃ今度はお前とはぐれるし、しょうがねえだろ。それとも、イヤか?」

 わたしはぶんぶんと首を横に振る。リョウ君が笑った。からかうような軽い笑み。


 うう、わたしたち友達なのに。

 頬がほてっていくのがわかる。

 甚平姿似合ってる。かっこいいよ、反則だよ!


 ――スマートフォンでの連絡が終わって、とりあえず河川敷で落ち合うことにした。


「あ、いたいた。おーい」

 赤い着物姿の美咲さんの声に、わたしたちはぱっと手を離す。なんだか、気恥ずかしい。リョウ君が照れたように頭をかいた。

 石や砂の多い河川敷は足元がおぼつかない。周りがうす暗いし。よたよたと、慣れない下駄で歩いていく。

 前を行く彼が時折振り返り、わたしを心配そうに見ている。


 ビニルシートを敷き、みんなで河原に座って、花火が始まるのを待つ。


 ――あれから。

 ミカちゃんという、黒板に絵を描いていた子と仲良くなって、メッセージのやりとりをするようになった。

 木内さんはウワサでは大人しくしているらしい。もっとも、夏休みが明けたらわからないけれど。

 ちなみに高山君はリョウ君の親友だ。


「あっ、始まったぞ」

 夜空に白い球が情けない音を立てて伸びていく。情けないが、上に向かって力強く。

 パーン、バララバ。

 みんなが闇夜に突然現れた光の花に釘付けになる。


「たーまやー」

 わたしたちは声をそろえて言う。一瞬、周りが轟音とともに白や青に照らされる。

 沈むと、鈴虫の歌声と、カエルの競うような合唱が戻ってきた。


「ゆずも見てるかなぁ」

「ベランダで見れるんだっけ」

 ゆずは、視覚特別支援学校で出来た友達と見るんだって。

 ちょっぴり寂しいけれど、この人込みじゃ仕方がないかもしれない。

 もっとバリアフリー化が進むと良いんだけれど。


「これって、空の上からも見えるかな」

 花火に照らされた、懐かしむような、ちょっと切ない表情。

「きっと見えるよ」

「……ああ」ほっとしたようすで目を細める。「きれいだな」

「うん」


 今。

 今、わたしたちは、同じものを見ている。

 ゆずも。

 リョウ君も、そしてわたしも。きっと亡くなった彼のお母さんも。


 彼は、木内さんについて「どうしようもなかったっていう、あの言葉の気持ちが全く分からないわけじゃない」と言っていた。

 それは、障がい者の親を持った彼の本音なのだろう。

 だからわたしは、なにも言わない。

 なにが正しいのか。真実はきっと誰にもわからない。


 でも、いいんだ。

 わたしは、ゆずやリョウ君たち、大切な仲間と生きていくって決めたんだから。


 今は、シンプルにそれだけでいい。


                                         <終>

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十五分間のよる かやの志保 @kayano202412

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