私の楽しくて幸せで最高の人生
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第1話:私の晴れ舞台
私を眠りから引きずり出したのは、焦げ臭い異臭だった。
蝋燭に火を付けてベッドから起き上がり、かすかな明かりを頼りに、重く閉ざされたカーテンを開いた。
窓の向こうに広がる夜空には、星々がきらびやかに瞬いている。だが、その美しさに酔いしれる間もなく、焦げた臭いが一層濃くなっていく。
――いったいこの館で何が起きているの。
そう思い振り返った瞬間、ドアが軋む音を立て、粉々に吹き飛んだ。
破片が頬を掠め血が溢れる。
目の前でドアが吹っ飛び、肌を撫でる冷たい空気は死滅、部屋には乾いた熱気が立ち込め、頬の血が白い寝巻きに落ちるときには額に汗をかいていた。
呼吸をすると喉が焼けて痛みが走る。
熱い……痛い。早く、何とかしなくては。
体内に入ってくる熱の通り道を抑えながら立ち上がり、吹き飛んだドアの向こう側を覗いた。
私はその光景を目にしたとき、夢であって欲しいと願った。
館の廊下だったそこは、まるで昔から語られる地獄のような光景が広がっていた。
床に転がる沢山の死体や絨毯は赤い炎に包まれ、四方八方から悲鳴や割れる音が響いて聞こえてくる。
私は胸に閉まっていたペンダントを強く握りしめた。
あの子を育てたいと願った、私への罰なのですか、大精霊様。
私が守ると誓った物、者、ものたちが、燃えて崩れて消えてゆく。
瞳に写る館の光景に手の震えが止まらず、何も考えられずただ立ち尽くしていると、足元に焼け爛れた現当主の自画像が落ちてきた。
それを見た私は、自分の使命は、まだ終わった訳ではないと気づき、寝室から護身用の短剣を手に取り廊下にでた。
まだ、まだ間に合う。当主様が生きて入れば、まだやり直せるかもしれない!
私は胸のペンダントを炎の中に捨て、火の弱い部分を慎重に踏み潰しながら、メイド達の無惨な死体を横目に当主様を救出するべく、上を階層を目指して廊下の先を進んだ。
階段を登り、火の手が行き着いていない廊下を歩いていると、奥に微かに動いているメイドを見つけた。
私は生存者がいる事に歓喜し、急いで駆け寄った。
一階から二階に上がるときに見たメイドたちの各箇所入れ替えて遊ばれていた死骸を目にしたときは吐くのを我慢しながら生存者はいないと思っていた。けどその考えは過ちだった。
窓から入る星々の光に照らされる廊下を走りメイドの元に辿り着く。
メイド服上から見える茶髪の長い三つ編み、その特徴一つで彼女がメイドたちの中でも特に明るい性格のフラレリーゼであるを知った。
「フラレリーゼ! 大丈夫ですか! フラレリーゼ! 私の声が聞こえますか!意識がありましたら返事をして下さい! フラレリーゼ!」
声をかけるが返事は一向に帰ってこない。
私は急いでメイドのフラレリーゼを手繰り寄せ、怪我をしている箇所を確認する。
体のあちこちに切られた跡が、ですがどれも軽傷の部類、まだ息もある。これなら助けられるかもしれない。
背中の綺麗に編まれた三つ編みを逸らし、背中に刺さるナイフを見つけたが、これも深くは刺さっておらず、一番重い傷はこれだけだった。
「大丈夫ですよフラレリーゼ。今助けますからね」
私は彼女の背中に刺さったナイフを慎重に抜く、大量出血での死を防ぐために寝巻きの服裾を短剣で斬り、ナイフの周辺に集め抜いた。
「・・・・カチ」
ナイフを抜いた瞬間、不穏な音が聞こえた。
「カチっカチっカチ」
一定音で鳴り響く音を聞くたびに全身から冷や汗が溢れ出し、私は手繰り寄せた彼女の体を上空に突き飛ばし、急いで物陰に隠れていた。
宙を舞うフラレリーゼの体が床に触れた瞬間、彼女の綺麗な三つ編みごと頭はごとこっぱみじんに弾け飛んだ。
音が止み、物陰からゆっくり顔を出して辺りを確認すると、彼女の頭は無くなり、血溜まりと、血痕、そして無数の細い針が至る所に突き刺さっていた。
私はその光景を見つめながらある単語が脳裏に過ぎった。
【狩人殺しの罠】
この館に勤める前、私はずっと暗殺家業をしていた。
長い間暗殺をし、様々な罠を見ていたが、これほど残酷で精密で丁寧にそして楽しいそうに作られた最低最悪な罠は見た事がない。
「一体…………どんな思考回路をしたらこんな残酷な罠を躊躇なく作れると言うのですか!」
体の中を確認すると、内臓類や一部の骨は抜かれ、生きているように動かす仕組みが体の中に残っていた。
私は、なんてモノを産んでしまったのだろう。
ナイフを捨て、暗い天上を見上げると、色々な後悔が頭の中を過ぎる。
「一体……どこで、何を間違えたのでしょうか」
出来れば娘は愛情を込めて育てたかった。これはいけない事ですか?
胸を満たし続ける後悔と、湧き上がる怒りに我慢ができずナイフを何度も何度も何度も床に刺し、喉が枯れ果てるまで叫んだ私は、気付けば頭のないの遺体を、強く抱きしめていた。
あぁ、ごめんなさいフラレリーゼ。私が悪いのです。私がいま亡きご当主様に、娘を愛させて下さいと願った、私が悪いのです。
救えなかった命の代償を感じながら、彼女の遺体をそっと床におき、彼女の綺麗な手を優しく握りながら誓った。
【私の娘は私の手で殺す】
これ以上、誰かを不幸に落とす前に、私がこの手で殺さなくては。
血まみれの白いシルクを短剣で引き裂き、服の下に用意していた複数の短剣、ピッタリ肌に密着する漆黒の暗殺服が、姿を見せた。
待っていなさい我が娘よ。今、母が殺してあげますから。
窓に棘のように散らばる破片を一蹴りで一掃し、窓から体を出し、館の周囲を確認する。
現在は4階、2階の廊下には火が既に回っている。3階に登ってくるのも時間の問題だ。
左右を見渡しても異変はない。
4階に来るまで罠はなかった。しかしこの先に登る階段に罠がない保証はない。
私は手に持っていた短剣を口に咥え、石積みの壁の隙間に指を挟み、登る事にした。
あの罠を見るあたりもう生存者の事は考えない方が良い。
恐らく当主様は生きている、しかし、助けに向かって部屋の扉を開けた瞬間、当主様が死ぬ何かしらの仕組みを作っているでしょう。であれば当主様の救出は危険。娘を殺し、その後に助けに行く、これが懸命な判断だと、そう願いましょう。
現当主様の住む8階に辿り着き、窓を割って廊下に入ると、予想を遥かに超える鉄臭い異臭とメイドのバラバラ死体で、廊下は埋め尽くされていた。
胃液が逆流し夜食を吐いたが好都合だ。体は身軽になり戦闘しやすくなる。
メイドたちの目玉や臓器を踏みつけ、重くのしかかる重圧を堪えてながら屋上に繋がる扉の前に立ったとき、思わず口から「あぁ……やっぱりか」と声が溢れた。
屋上扉の壁周辺に、太く赤い文字で【誕生日おめでとう! お母様!】と書かれていた文を見つけた。
私は異臭を胸いっぱい吸い上げ、腹の物を全て出す勢いで扉を蹴り破った。
明るい星々に照らされる夜空に照らされるだだっ広い石の庭中央に、青く色鮮やかなドレスを見に纏う娘の後ろ姿が視界に写った。
娘は振り返るとにっこりと優しい子供のような笑顔を私に見せてくる。
「もうお母様。私を見つけるのが早いですよ!次はもう少しゆっくり探して下さいね!」
愛らしくぴょんぴょん飛び跳ねなが頬を膨らませる娘の表情を見たとき、私の背筋が凍りつき、左に回避すると、先ほど立っていた位置に複数のナイフが石床に刺さっていた。
時間差で発動する罠まで・・・・・・・・。
改めて娘を見ると、これでもかと吊り上がった口角と快楽で緩んだ瞳をしていた。
「もぉ〜お母様ぁ〜。よけないでよ〜。私の関心の出来だったのに!」
私はその表情と発言で確信した。
コイツが元凶だと。
「お母様? 私が? あなたの? ありえませんね」
私が母であることを否定すると娘は着ているドレスを手の力だけで引き裂きながら、舞台に立つ姫役ように情熱的に声を荒げだした。
「なんて酷いお母様! 私の事を忘れてしまったのですか⁉︎ 貴方の最愛が故に捨て、ロウゼン・ハイネス家の娘として育てられた【エクレア・ロウゼン・ハイネス】の事を! 忘れたのですか!?」
そして娘は涙を流しながらドレスの裾を引き裂き、足を軽く交際して私にお辞儀をする。
「あぁお母様。私は悲しいです。こんな愛らしい娘を忘れてしまっただなんて…………もしかして、私を愛せなかった事を悔やんで悔やんで仕方がないから嘘をついたのですか? それとものこんな化け物を産んでしまった事に後悔して忘れようとしているのですが? もし、そうであるのだとしたから、私、エクレアは、涙で前が見えません・・・・・・・・・・・・・・・・・・フフ、フフフ、フハハハハハ!」
娘は肩を笑わせながらゆっくり顔を上げ、ニッタリと笑い、瞳が赤く染まっている。
「お母様ぁ〜〜私の為に〜♪・・・・・・・・死んで?」
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