朝ごはんを一緒に

陶子

朝ごはんを一緒に

 彼を起こさないようにそっとベッドを降りる。


 ワンルームマンションにありがちな廊下にあるキッチンへ行くと、そっと冷蔵庫の野菜室を開けた。


 職場でパートさんからいただいた黄桃がある。桃は軽く押しただけでも傷んでしまうから、大切に持ち帰った。


 フルーツキャップが被せられており、スーパーでよく見かける白桃より黄色が強い。


 美しく滑らかな表面には細かい産毛が生えていて、顔を近付けると果実特有の甘い香りがした。


 なんて美味しそうなの。


 水音をあまり立てないように優しく桃の表面を洗う。皮を剥くのに熱湯につけるか迷ったが、このフレッシュさを損ないたくなくて、自力で手で剥くことにした。


 種にゴツンと当たるまで包丁を入れたまま、桃だけを一回転させる。これで切れ目が一周できた。


 切れ目を境に左右の手で持ち、そっとひねる。


 それで種が実から外れて取り出せるはずだったが……外れない。何度かやってみるがビクともせず、桃が痛むのを恐れて諦めてしまった。


 では、実を削ぎ取る前に皮を剥こうと手をかけたが……剥けない。仕方なく、実を食べやすい大きさに包丁で削ぎ取ってから、皮も包丁で落とした。


 切っている時に気付いたが、実が白桃より固い。


 種の周りにある果肉も、白桃よりずっと赤かった。黄色い果肉と種付近の果肉の赤さの配色が、どこかマンゴーを思わせる。


 お客様用の皿を用意して、綺麗に盛り付けた。


 他に何か食べるものはないかと冷蔵庫を開いたが、六個パックのチーズ一切れと、いつ開封したか分からないヨーグルトしかない。


 代わりに冷凍庫にはアイスクリームや冷凍のパンケーキやパンがぎゅうぎゅうに詰め込まれている。


 パンケーキの袋を取り出して電子レンジにかけた。


 ドアにはめられたガラス越しにリビングを覗くと、彼は起き上がってベッドの上で背伸びしている。


 美しい姿勢で座ったと思ったら、きつく目を閉じて微動だにしなくなった。


 私はドアを開けて声を掛ける。


「おはよ。朝ごはん食べる?」


 彼は小さく返事をしてベッドから降りると、定位置に座って食事を待っている。


 彼のご飯を準備して、私もいそいそとワンルームの折りたたみテーブルの上に朝食を運んだ。


「さぁ、食べよっか」


 私が手を合わせると、彼も先端が少し曲がった尻尾をピンと伸ばして食事を始めた。


 今日も私の猫ちゃんはなんて可愛いんでしょう!


 私も桃を頬張る。噛み応えがあって驚いた。甘味はそんなに強くなくて、酸味が程よく果汁と共に口の中に広がる。


 朝にぴったりの爽やかな味だった。


「あ〜、今日はエアコンの効いた部屋で一日ダラダラしよっかな〜」

「にゃー」


(おわり) 

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朝ごはんを一緒に 陶子 @mori-leo

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