等価交換の穴
夕雲
等価交換の穴
「おや? この穴はなんだろうか」
Aは△△団地の裏にある小さな公園の1つの木の根元でしゃがみこんだ。
根元には幅が約1メートル程の穴がそこにある。
穴の中には果てしなく漆黒が広がっており、底が全くもって見えそうにも無いほどだ。
「どのくらいの深さなんだろう」
Aは適当な小石を見繕い、その穴に投げ入れる。
ぽいと投げられた小石はそのまま漆黒に消えていき、底についたような音はいつまでたってもしなかった。
Aはなんだか不気味に思って立ち上がりその場を離れようとした。その時だ。
「あっ」
立ち上がった拍子にAのポケットからイヤホンがポトリと落ちた。
落ちたイヤホンが地面へとつくことなく、穴の中へと消えていった。
「買ったばかりのイヤホンが……」
Aが残念な思いに浸っていると穴からお金が吐き出された。
その額は4299円。なんとも中途半端な額だ。そう思ったのだがAはふとしたことが頭によぎった。
「4299円……? たしかあのイヤホンの値段もそうじゃなかったかな」
Aは先程買ったレシートを見返すとその欄にはしっかりと4299円の文字が書かれているではないか。
「なるほど。この穴は物を落としたらその金額が帰ってくる穴なんだな。色々実験してみよう」
Aは取り急ぎ気になるものを家から見繕い穴の中に入れていくことにした。
まずはお金。これは100円玉も1000円札も同じようにそのまま帰ってきた。
次は使わなくなった玩具や古着。これらもお金がでてきたが想像していた金額よりかは少ない額で出てきた。
Aはその後少しだけ使ってからそれ以来使用しなくなったお皿を入れてみた。裏には値段のシールがついたたままであり800円と記載されている。帰ってきたのは750円であった。
「つまり古いものはその分この穴から出るお金が減っていくというわけか。こいつは便利だぞ」
Aはお手軽なリサイクルが可能な穴としてその穴を重宝した。
使用していくうちに穴に入らないものは適当に分解していれたとしてもその分の金額が出てくることもわかった。
Aは周囲の人間にもその穴のことを教えるようになった。
その穴のことを聞くと周りの人間はこぞって不要なものを入れたいと言い始めた。
Aはこの穴は皆のものだという思いから分け隔てなく使い方を教えていた。周りの人間はAに大層感謝をしていた。
ある時、団地に住まう1人の老人が行方不明となった。
一応ということで団地の人で探したりもしたが見つかることはなく、警察にも手伝ってもらうもついぞその老人は見つかることはなかった。
それ以来、その団地では度々誰かの行方が消えることが起きていた。
消えた人は決まって誰かに疎まれたりしている人だったそうだ。
Aはある時いつものように不要になった物を捨てるため穴の場所に訪れていた。
そこには先客がおり、色々なものを穴に捨てていた。
先客の人は捨て終えるとAに気づくと軽く会釈をした。その時だ。
先客の人は足を滑らせ、穴の中へと消えていった。
Aは何が起きたかは分からずただポカンとみているばかりだった。
穴からはいつものようにお金がでてきた。その金額は7536円。
何度もその穴を利用してきたAはその金額がだいたい先客の人が身につけていた衣類の総額だということはなんとなく理解できた。
そして同時に気がついた。
人に値段はつかないのだと。
等価交換の穴 夕雲 @yugumo___
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます