第4話 探索中ときどき迷子中
「動物に残酷な者は人に対しても優しさがなくなる。動物をどう扱うかで人の心が分かるのだ。」
イマヌエル・カント
どうしようもなく受け入れ難い現実があったとしても、
その現実を受け入れないといけないのが、現実である。
目の前の自分の名前を確認した後、少し時が止まり
そして無い手で目を擦ろうとした。
擦ろうとした後に気づいた。あぁ手がない。
ドラ⚪︎もんみたいな手でも欲しい。いやバカにしている訳ではないんだけど、欲しいじゃん手。
手が出ないか念じている中、呼ばれる声が聞こえてきた。
「そこのおチビちゃん、後はあなただけよ」
周りからの視線を感じ、辺りを確認すると皆ゲートをくぐり終わったみたいだった。
こうゆう場合即座に動かないといけないと思うのは長年のサラリーマンの血が原因だと思う。
「すみません。行きます。」
自分でも信じられない声の小ささだった。本当に行きたくないのだ。
そのゲートの先には死があることを先ほど知ったばかりであるから。
近づくゲートと歩み寄る死の間で、色っぽいお姉さんの声だけが救いだった。
「行ってらっしゃ〜い」
既視感がある。光が満ちている。
また船に乗る。
海の上か、空の中か分からないが進む速度は一定で揺れがない。
気持ちがいい航海であると言える。
戻ってくる際には気づかなかったが、船上には他の者も乗っていた。
当たり前と言えば当たり前なのだが、余裕がなかったのだ。
落ち着いていると見えるものもある、視界が広がるというやつだ。
またあのゴブリンがガヤガヤ言っているが、あえて気にせずにいこう。
そういえばバロウの姿が見えない、あの狼は何を考えているか読みづらい、急に話しかけてきたと思ったらするりと消えていく。
のれんみたいな男だな。
すーーーーと体が動く。
「お、ケェ」
恥ずかしい、変な声を出してしまった。
急に船の速度が上がり、転びはしなかったが体が後ろに下がってしまった。
前方を見ると入ってきたゲートに似た入り口が先に見える。
そのまま進み強い光で目を閉じる。
暗闇の次に視界に入るのは、これまた暗闇、少し薄暗く土の匂いとカビの匂いが強い。
じめりとした地面の感触が全身に伝わる。
「お、おい、なんだm、どこだうおlっここは」
そうゴブリンのアストの声である。動揺が文字から伝わる。
それもそうだろう、てっきり最初に行った森の中だと思っていた。
しかし着いたのは、おそらく洞窟なのかな、
そこそこの広さの空間の中真っ直ぐ先まで横についた松明とともに通路が闇を示している。
「おい、少し声のボリュームを下げろ」
「だって、おい、どこなんだよここは」
「状況を理解するにしてもお前の声は頭に響く」
「響くってなんだよ、おい」
伝えるバロウに、反発するアスト。
大変ほのぼのしい空間に見える。
「ダンジョンステージを開始します」
空間に似つかわしくない声が聞こえる。
「このダンジョンでは、スキルや建物などの強化に必要な素材がドロップします。」
「この初級ダンジョンでは全3階層になっており、素材が採掘できるポイントがあるため、ユニットに採掘してもらいましょう。」
だ、だんんジョン、すごい急に異世界転生もの感が出てきた。
ちょっとだけワクワクしてしまった。
ちょっとだけだよ、うん本当に。
雑念を振り払いながら、顔をふりふりしながらやることを理解しようとする。
ダンジョンは全3階層と言っていた、この洞窟内だとおそらく下に続く階段みたいなものがあるのだろう、
後は、素材を採掘する?と言っていた、
採掘方法はどうするんだろうか、掘削するようなものは無いのか、
この丸いフォルムだとどう頑張ってもツルツルすることか溶かすぐらいしかできない気がするんだが。。。
「ボトッ、カラン」
思考を読まれたかと勘違いするぐらいのタイミングで、前方にツルハシらしきものが落ちていた。
ありがたいよ、うん、ありがたいけどどうやってこれ振り下ろせばいいんだろう。
よく見ると、ドリル状のものもある。
うん、急に近代的だな。電動っぽいや。
手がない私でも安心だね。
「おい、急に連れてこられて労働しろってか、ふざけんなよ」
「さっきから黙っていれば、あんたうるさいのよ!ちょっとはその臭い口閉じられないのかしら!」
「うぇ、く、臭い??」
「そうよ、あなたのその口から出る悪臭も言葉も両方よ」
「ぇいう、いいずぎだぁ」
すごい、突き刺す言葉の槍がアストの心という心を突き刺している。
だめよ、彼のHPはもう0よ、みたいな感じだ。
目から落ちそうな水は見なかったことにしてあげよう、
彼の名誉のために、うん、少し鼻水が出ている。
「ほらそっちの狼さんはもう動き初めているじゃない」
スタスタと装着する形の鉤爪をつけたバロウは、私たちの存在を置いて歩き始めてしまっている。
「おい待てよ、狼野郎、おい、おーーーい置いていくな〜」
バロウを追いかける形で皆足早に準備を始める。
それぞれ、支給された道具を手に、腰に、頭に持ちながら暗闇の先へ歩みを進めた。
ミッションを開始します。
スキル強化石の入手 0/10
キャラクター強化石の入手 0/20
3階層のボス討伐 0/1
皆が急に停止する。
自分も同じく目の前に表示された画面に視線を移す。
「皆さんにもこれが見えているんですか?」
急に声を上げた、一声で好青年だと感じる音。
声の主に視線を向けると、今回一緒にゲートを潜ったゴブリンがいた。
アストよりも、身長は高く醜悪なゴブリンの中でも端正な顔立ちをしている。
「あの〜、聞こえてますか?」
「あのぉぉぉ。。。」
消え入りそうな声になってきた、流石に可哀想になってきた。
こうゆう時に声を上げづらい。。
「見えてますよ。はい、ミッションのことですよね。」
「はぁ〜良かった。私の声だけ届いてなかったのかと思って」
「大丈夫ですよ、届いてます」(声が発しづらかっただけで。。申し訳ないです。)
「これって、何をどうするか皆で話しませんか?」
「え、どうするかって、」
「あ、すみません。名乗りもせずすみません。タナカと言います。」
「こちらもすみません。ヌースと申します。」
ぺこぺこしてしまう、社会人感が出る謎の空間である。
丁寧なゴブリンさんだな〜と思いながら、先ほどの問いかけについて考える。
ミッションについては、事前に聞いておらず急に降って湧いてきた。
正直何をすれば良いのかわからない状況下だったので、やる事の指針がわかったことは大きい。
しかし、どこに強化石なるものがあるのか、また最後のミッション、、ボスとは。。
「俺は、アストだ!」
急に降って湧いてきた男、アスト。相変わらずだなと思う。
手を腰に当てて、偉そうにふんぞり返っている。
「あんたの名前なんて聞いてないのよ、私はエリカ、、一応答えておくわね」
プンスカしながら、白いうさぎさんがこちらを見ている。
赤い目に、特徴的なツノが一本。
俗にいう、アルミラージという種族。一角ウサギである。
可愛らしい見た目とは裏腹に、ゲームでは攻撃性が高く、
不用意に近づいて、あのツノで一差しなどよくあった。
アガ・アスでは、二足歩行であるアルミラージはこの世界でも同じなようだ。
ただ、彼女はうん。ツンデレなのだろう。
「そこのスライム、何うなずいているのよ!何か変なこと考えているんじゃないでしょうね!!」
ビクッ!!!!
「いえ、僕は何も考えていませんよ!はい!」
「全く、変な顔しちゃって、失礼しちゃうわ!」
営業スマイルをしたつもりが、スライムでは難しいようである。
「私は、バロウ、よろしく」
全員の名前と顔が初めて一致した。
各々が様々な感情と表情を浮かべながら、自己紹介を終えた。
「皆さん、よろしくお願いします!」
「相談したいことがあります。今後のことです。」
「それぞれが何をするのか役割分担をしませんか?」
「闇雲に探し回っても時間だけがすぎてしまいますし、
それにこのミッションの上に表示されている時間。
2:54、今も進み続けるこれは、おそらくミッションの終了時間を示していると思います。」
「ですので、スキル強化石?とキャラクター強化石?と呼ばれるものを探して回収する部隊3名と、3階層と呼ばれる最後の扉までを探す部隊が2名」
「これでいきませんか?」
段取りが良いタイプで、まとめる資質がある。よく通る声がその言葉をより一層信用づける。
「タナカさん、僕は賛成です。」
先ほどの反省を生かし、今回は早めに発言することにした。
少し不安が残るが、時間がないと聞き、アガ・アスではミッション失敗時はただホームに戻されるだけで、ペナルティは無い。
強いて言うなら、スタミナというか編成したキャラは少し休ませる必要があった。
しかし、似てるだけでこの世界でミッションを失敗した場合、どんなことが起きるかわからない。
それこそ、一発退場と言われたら目も当てられない。
「私は、、そうだな。いいだろう参加しようじゃないか。」
バロウは少し悩みながら了承を下した。
「いいんじゃない、どっちみちやらないといけないみたいだし、効率が良いのは好きよ」
皆の視線がアストに集まる。
「え、あ、俺もそう言おうと思っていたところだぜ、気があうなタナカ!」
慌てて取り繕うアストは見ていて少しだけ微笑ましくなる。
「それでは、分けますか、皆さんどっちが良いとかありますか?」
「どっちでも良いけど、私はバロウと組みたいわ」
「え、?」
「だって強い男といたいじゃない、こんな訳のわからない場所なら尚更」
至極真っ当な理由だ、僕だって安全な場所にいたい、しかし先に言われてしまったため言い出しづらくなってしまった。
「では、バロウさんとエリカさんでワンペア」
「私と、ヌースさんとアストさんで、強化石を探して回収します。」
「1階層は一緒に回りましょう。探しながら、2階層に続く場所があれば、そこからは別れて探索。お互いの進行具合でこの時計が1:00を過ぎたらどこかで落ち合いましょう。」
バロウがコクンと頷き歩き出す。
この先が真っ暗闇であるから不安なのか、5名の足音だけがこの暗がりの道に響く。
数分進むと、道が二手に分かれる、右上の松明がゴウっと揺れる。
すんっ、「私たちはこっちへ行く、お前たちは好きにするといい」
少し鼻から息を吸ったバロウが、左の道を選択する。
そのまま先へ進んでいく、
「ねぇ、ちょっと待ちなさいよ〜!」
後を追うようにエリカがひょこひょこ追いかける。
「ちょっとバロウさーん」
呼びかけるタナカさんの声も虚しく、行ってしまった。
「どうしましょうか」
「あ〜ん、どっちでも良いじゃね?」
「そんな、少しは考えてくださいよ!アストさん〜」
「うるせぇ〜な〜」
「じゃあ、俺たちは別の方向に行こうぜ、な、これで良いだろ?」
「え、うーん、ヌースさんどうします?」
「僕ですか!?、えっと、とりあえず少し進んでみてあまり変化がなさそうだったら、来た道戻って追いかけても良いんじゃ無いですか?」
「なるほど、それは良いですね!そうしましょう!」
3名の意見が合い、右の道へ進む。
基本、道は少し足場が悪い土の床に、ちょっとした上り坂や下り坂があり、ここまでは一本道だった。
10mくらいの横幅に、上は、5mくらいの高さがある。
流石に広いのでそこまで圧迫感は無いが、生物らしきものが見当たらないのが、すごく気味が悪い。
四つ隅は、木の棒で補強されており、鉱山の洞窟と言えばイメージしやすい。
小学生の頃、学校で行った記憶がある。
どこまでもまっすぐな道に、所々左右が掘られている
あまり掘り過ぎないのは、崩れる原因になるのもある。
何分、何十分歩いただろうか、
汗は出ない気がするが、この空間を進み続けるのは精神衛生上良くない。ゴールがわからないからだ。
「お〜い、いつまで進むんだよ。」
痺れを切らしたアストが声を上げる。
「やはり、そうか。。」
アストの呟きに答える訳じゃなく、何か気づいたように悟るように声を漏らす。
「私たちは、ループしているようです。。。」
「あぁ、ループってなんだよ」
自分は、電動キックボードを想像してしまっていた。
「どうゆうことですか、ループって」
「その、先ほどから道に跡をつけてたんです。」
「あまりにも変わらない道だったので、自分の名前を壁とかに書いてわかるようにしていたんです。」
「およそ、200メートルの間でずっと僕たちは同じ場所を歩いています。」
「これを見てください。僕の名前が書いてあります。」
壁を見ると、何か彫られていた、日本語とは異なる文字であるのに、なぜか読めるタナカと。
「少し歩みを進めてみましょうか。」
そう言って歩き出す彼を追うようにして歩く。
数分後、
「ここを見てください。」
目を疑った。あるそこに同じような場所にタナカの文字が。
「えぁあおい、ふざけるなそんなわけねぇーだろ」
そう言って、急に走りだすアスト。
「うぉぉぉぉぉぉぉ、おぇ、」
そうして、後ろからやってくるアスト。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
「はぇ、はぁはぁはぁ」
また、走り出してやってくるアスト。
3回目に突入する際に、僕はさすがに止めた。
「待て待て待て、アスト、それ以上は!!」
「はぁはぁはぁ、だってよ信じられるか、なぁさっきまでよ、俺たちは普通に、なぁ、どうゆうことだよ。おい」
「考えなければいけませんね。」
冷静な声に、自分が興奮していたと気づく。
「どうやったら、このループを止められるのかを。。。」
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N(ノーマル)レアの僕は今日も生き残りたい。 @odoneco_999
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