医者と教祖と昼休み
ゴードンヘシヲ
第1話
ここは大学病院。午前診を終えた13時、ようやく昼休みを取れた内科医の辻治。
「ふぅ、やっと休憩。お楽しみタイムですな」
机の上には彼の好物であるカップ麺が置かれている。
「烏龍茶も用意しましたぞ。では早速……」
「楽しそうだね」
「ブフォッ!!何事ッ!?」
侵入者の不意打ちで、口にした烏龍茶を吹き出して床に溢してしまう。
振り返って見るとそこにいたのは、見知らぬ美女であった。
「どちら様で?」
「これはこれは、申し遅れてすまない。オレは森尾セツラと申します。以後お見知りおきを」
「はぁ。ん?森尾セツラ?その名前どっかで」
「おや?オレをご存知で。これはお目が高い‼キミ、入信しないか?聖蛇科蓮教にッ!!」
「セイジャカレンキョー?」
「オレはそこの創始者にして教祖なので」
「何ですとーッ!?」
聖蛇科蓮教とは、新興宗教の類いでいわゆるカルト。
数年前突如として現れ、教祖が女性ということもあり若い層や主婦層に人気が高い。
「申し訳ありませんが、生憎と間に合っとります」
「おや?既にどこかの宗教に?」
今まで誘いを断る者が少なかったのか、辻が拒んだことにセツラは興味を示す。
「万象救済教。信者ではありませんが、あそこの教祖とは知り合いでして。それに、彼の信念は本物です。まぁ、さすがに教えに従うつもりはないですがな。ハハッ!!」
そう言うと辻は、頭を掻きながらセツラに対し苦笑する。
彼の言葉を聞いた後、彼女は教祖として辻に微笑んだ。
「その方は人に恵まれてますね」
「いやいや、彼の人柄がそうさせとるんでしょう」
「なるほど。時にキミ、今から昼食かい?」
「そうなんですわ、休憩中でして……ああッ!!」
「どうかしましたか?」
「お気にのカップ麺が、伸びきってやがるッ!!絶望だッ!!」
思い出した辻が慌ててカップ麺のフタを開けて確認するも時既に遅し。
伸びきった麺と、汁を吸ったことで減るに減ったという状態だった。
「絶望って、そんな大袈裟な」
「あなたには分かりませんかッ!?楽しみにしてルンルン気分で焼いたに……うっかりミスで黒焦げと化したパンケーキ完成という気持ちがッ!!」
「ぐっ!!それは確かに絶望だッ!!すまなかったね、君の気持ちを蔑ろにするような発言をして」
「いえ、分かってくださればそれで」
どうやらこの二人、なにかと接点があるようです。
医者と教祖と昼休み ゴードンヘシヲ @49mo10
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます