第3話 撤退
真緒はラピスを後方まで下げる。
ウルフにまたも負ける訳にはいかない。
そんな強い意志が感じ取れた。
バーニアを弱める音。
軟着陸すると、真緒は味方機からライフルを受け取る。奪い取る音。
「行くよ。ついてきて」
僚機を呼び、ウルフのいる基地内部に向かう。
がしゃんがしゃん。駆動音が鳴り響く。
警戒心を強め、レーダーを見やる。光点が光る。電子音が鳴る。
「くる」
前方から淡い光が差し込む。ビームの発射音。
回避行動をとる。アクチエーターが駆動する音。
基地内部の外壁が焼け焦げる音。
『よくここまできた』
ウルフのしっとりした声が通信機から流れる。ノイズ混じりだ。
『だが、俺には勝てない!』
威勢のいい声で機体を踊らせるウルフ。加速する音。
真緒は機体を動かし、実体剣を振りかざす。
きらん。抜刀の音。
ウルフの機体が光学迷彩で隠れる。消える音。
「消えた!? バカな!」
真緒がうろたえる声を上げる。
真緒が煙幕をはる音。
一閃。
煌めく粒子が舞う。切り結ぶ音がする。
『まいったね。こりゃ』
ウルフは負けを認める声で、ため息を吐く。
「やった――っ。勝った――っ!」
真緒が嬉しそうに声を上げる。
「よくやった。
大会主催者のジンが勝利を讃える。
「こちらが賞金だ」
ジンは袋に入った賞金を真緒に渡す。
「あんがと」
軽いノリで言う真緒。
「それで、ものは相談なんだが……」
渋い声で言うジン。
「なに?」
警戒心を強める真緒。
「入間さん、軍隊に入らないか?」
ゲームでの実戦が実際の戦争に役立つのはすでに実証済みだ。
シュミレーション経験としてゲームで腕を磨くのは大いにあり得る。
「お断りします。わたしはこの人だけのナイトです」
こちらを見てニカっと笑う真緒。
「……どうしても入ってほしいのです」
ジンはそのお堅いイメージから想像もできず、頭を下げている。衣擦れの音。
「どんなことをされても戦場にはいきません」
軍事利用されるなんて願い下げだ。そう告げる真緒。
ジンの後方にいた部下たちが真緒を取り押さえる。
「何するんだよ。止めろ!」
真緒は大声を上げるが止めるものはいない。
「くそ。覚えていろ!」
真緒が吐き捨てると、無理矢理に機光兵器ブラッドにのせるジン。
こちらも拘束される。
輸送機が飛びたつ音。
もっとも死に近い戦場を眼下に見る。銃声が鳴り響く。
輸送機からパージされる機光兵器。
「くそ。敵を倒さなくちゃ、帰ることもできないのね」
真緒は苦々しげに唇を噛む。
「あなたも気をつけなさい」
こちらを優しく気遣う声が聞こえる。
真緒はサブマシンガンのトリガーを引き絞る。スイッチを押す音。
発射される弾丸の音。
フルオートでぶっ放した銃弾の音。
敵兵の中を突っ切り、敵機の装甲が砕ける音。
戦場の音。
ミサイルを放つ音。
「敵の数が多すぎる!」
ここは地獄だ。生きて帰れる保障もない。
真緒は内心びびっているが、こちらにくる弾丸をシールドで受け止める。弾かれる音。
跳弾の音。
機体を弱い側面から叩く。
『支援艦隊か!』
僚機から通信が入る。
「そう言われるとそうなのかもね」
真緒は自嘲めいた声を上げる。
『こちらブラッド1。敵の侵略を受けている。援護を求む!』
短距離通信機に震えた声が響く。
「こちらブラッド
真緒はそう言い、機体をひねる。
L1H3に移動する。駆動音。
レールガンの発射音。
援護射撃だ。
ビーム砲を発射する。
敵機を退けていく。
戦う気力を失い、後退していく機体が見える。駆動音。
地面を踏みならす音。
機体が僚機の前に出る。発射するサブマシンガンとミサイル。
銃声。ミサイルの風切り音。
前戦にいた味方機が後方に下がる。
『ありがとう。ここは任せる』
「ちょっと待って!」
僚機に見捨てられる真緒。
てっきり一緒に戦うものと思ったが、僚機は撤退を開始する。閉じた翼が開く音。
飛翔する僚機。
生きていたい。僚機が発した言葉に真緒は苦笑する。
「わたしだってそうしたいんだけどね!」
実体剣を引き抜き、こちらと一緒に敵機に突っ込んでいく。
敵機のメインカメラが再起動する音。
真緒は洗練された機体の動きをする。無駄がない。起動音。
接近し、機体を切り刻む。切り伏せる音。
敵群の中心に来ると周囲にサブマシンガンとミサイルを一斉発射する。
銃声。発射音。
誘導砲の起動音。
「まだまだ!」
真緒の機体に着弾する音。
「わたしは、キミとずっと一緒にいたいの!」
砕ける装甲。
「だから負ける訳にはいかない!! キミはわたしが守る」
ナイトらしく、声を荒げる真緒。
動力パイプがはじけ飛び、機械油が飛び散る。
「くっ」
敵機の数はざっと三十。
こちらは二機しかいない。
この前戦で勝てるわけがない。
十はいた僚機も後退した。
「後退する」
真緒は狗肉の策で撤退を開始する。
背中を見せると、一気に敵機がバーニアをふかす。
ブラッドαの背中に銃弾が着弾する。
砕ける装甲。予備動力炉が爆炎を上げる。
「くっ。ヤバいかも」
こちらの機体のコクピットハッチを開放する。
真緒を回収し、戦線から離脱する。
「ごめんね。わたしが弱くて」
憔悴した声で応じる真緒。
「わたしがもっと強ければ」
後悔の念を抱く真緒。
「ごめんね」
何度目かになる謝罪を受け入れる。
こちらは前戦基地に着陸する。着地する音。
医務室に真緒をつれていく。
額に血を滲ませている真緒。
医者が真緒を診てくれる。
「ふむ。外傷はそんなにひどくないが、精神がな」
医者が険しい声を上げる。
「戦線は初めてだからか、激しく消耗している」
どうやら精神的苦痛が大きいらしい。
「ごめんね。キミのこと守れなくて」
真緒がぼーっとした顔で応じる。
何やら悩んでいるらしい。
「わたし、あなたのこと、好きよ」
小さく恥ずかしそうに呟く真緒。
「だから、撤退しよ?」
軍事境界線は後方に下がっている。
きっと真緒も気がついているはず。この戦いが平和に暮らしていたこちらを脅かしていると。
「そんなの分かっているけど……」
真緒は厳しい顔をしている。不安が伝わってくる。
「だって、わたしあなたと一緒に逃げたいの」
布団に顔をうずめる音。
恥ずかしそうにしている。
「わたし、あなたを愛しているの。だからもうちょっと傍にいて」
真緒は耳までまっ赤にし、こちらに向かってくる。
そして抱きつく。衣擦れの音。
「あなたは素敵だもの。わたしの気持ちを知って」
真緒はそう言い、頬に口づけをする。
「……あなたと生きたい」
心底嬉しそうに華やいだ笑みを浮かべる真緒。
「死にたくない」
本音を吐露する真緒。そこに迷いはない。
どん。着弾した音が医務室を焼く。
「どうして!」
真緒は涙目で医務室から飛び出す。
こちらも真緒についていく。
「どっち。どっちが機光兵器のドッグ?」
真緒は走り出す。駆けていく音。
ドッグにたどりつくと、誰も乗っていない機光兵器ブラッドに乗り込む。ワイヤースロープなど、乗り込む音。
起動音。メインカメラも起動する。
エンジンを噴かし、機体が整備用フレームから解放される。
前に足を動かし、基地から飛び出す。閉じた翼を開き、飛翔する。風切り音。
真緒はフットペダルを踏みしめる。
操縦桿を押し倒す。
ボタンを押す。
機体を反転させ、基地からドンドンと遠ざかる。
機体が風に揺れる音。
「敵前逃亡は重罪だっけ。なら――」
戦う覚悟を決めた真緒。
サブマシンガンを敵機に向けて撃ち放つ。
銃声。
切り開く前戦。
僚機が基地内部から撤退を始める。
真緒はサブマシンガンを撃ち続ける。
「キミも撤退して」
こちらを気遣う声。
真緒は前戦で戦い抜く。戦場の音が鳴り響く。
こちらが撤退してから三日。
真緒の消息は不明、か。
『前戦司令部より通達あり』
音声ガイダンスが鳴り響く。
『前戦を守り切ることができました』
報告をする通信兵。
『入間真緒の生存を確認』
その言葉にみな喜びの声を上げる。
見捨てた者も多いというのに。
『これより帰投する、とのこと』
急いで
カンカン。靴音。
格納庫のハッチが解放される音。
内部に入ってくる機光兵器。
コクピットハッチが開く音。
パイロットスーツを着たままの女性が一人、降りてくる。
ういいいん。ラダーが女性を乗せたまま降りてくる。
ヘルメットを外す音。
「よく生きていたな!」
軍人の一人がそう声を上げる。
みんなに囲まれる女性。否、真緒。
「キミも、無事で良かった」
こちらに気がつき、駆け寄ってくる。足音。
ギュッと抱きつく音。
「もう。離さない」
強い意志を感じた。
「あなたと一緒がいいの」
真緒は甘えた声を上げる。
整備兵含め、軍人たちは目を瞬き、離れていく。
「わたし、あなたを愛している。これからも一緒に居させて」
こくこくとうなずく。
「やったっ!!」
高らかに笑う。
報われた気がする。
ぐうう。腹の虫がなる。
恥ずかしそうにうつむく真緒。
「ええと。一緒にご飯食べよ?」
食堂へ向かう。
「わわ。たくさんあるね」
元気はつらつといった様子の真緒。
「ふふ。一緒に食べるの久しぶりだね」
嬉しそうに目を細める真緒。
注文し、料理を受け取る。
席に着く音。
「わー。そっちの唐揚げも美味しそうだね」
こちらが唐揚げをつまみ、真緒に差し出す。
「あーん」
大きく口を開ける真緒。
唐揚げを頬張り嬉しそうにする。
「わたしのオムライスもどうぞ♪ はい。あーん」
そう言ってスプーンでオムライスをとる真緒。
スプーンが近づいてくる。
ぱく。
「どう? おいしい?」
うなずく。
「良かった。でも間接キスだね?」
意地の悪い笑みを浮かべる真緒。
「ははは。冗談だって。気にしないで」
まるで恋人かのように振る舞う真緒。
「ふふ。嬉しい」
本当に楽しそうに笑う真緒。
「うん。おいしい」
オムライスを食べている真緒は、幸せそうだった。
「キミのこと、やっぱり好き」
そっと顔を近づける真緒。
「今度、もっとすごいこと、しようね?」
囁いてくる真緒。
「なーんて。あら。まっ赤」
からかうような声音が驚きに変わる。
「ふふ。いい顔しているね。わたしあなたのことだいぶ好きよ?」
こてりと首を傾げる真緒。
「でもキミも好きでいてくれて、ありがとう」
顔を近づけて吐息をかけてくる。
――わたし、あなたのこと、愛しているよ。
あなただけのナイトになります。 夕日ゆうや @PT03wing
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます