34.若き日のうちに
「ハジメテノ、コト」
「はい、初めての」
ここに懺悔しましょう。なんだかえっちに聴こえてしまいました! 私の心が穢れているばっかりに! 幾ら意地悪を交えて接してくる佐野さんでもそう誤認させる事は意図しないでしょう。本当に私が悪い。
「二人であればまだ踏み出しやすくなるかと。それに。先輩を笑う人が居ればがつんと怒ってやりますよ、私が」
冗談めかし、宙にパンチする仕草。イケ女ってかわいい事してもカッコいいんですね。
「あはは……でも、良いんですか? 本当に。やっぱり佐野さんが楽しめないままでは」
「私は十分楽しむつもりですが……先輩を悩ませるのは不本意です」
ふむ、と佐野さんは考えるそぶり。本当に不本意なんですか? 私結構貴方の事で悩んだりするのですけれど。
恐るべし無自覚ファムファタール。
「――そうですね。湯田先輩の好きな場所にも連れて行っていただければ、それで」
恐るべしイケメンムーブ。
こうして、私は佐野さんと遊ぶ約束を結んでしまったのだった。二人きりで。
◇
「せんぱいたちってぇ、テストどんな感じです〜?」
放課後の文芸部。デコったケースに美少女のチェキ風カードやらを挟んだスマホから顔を上げたのは一番下の後輩――堀鹿乃子さん。ミルクティー色のウェーブロングは今日もふわふわさに磨きがかかっている。
「ワタシは特に。いつも通りやるだけだわ」
「だいたい上位ですからなぁ、花時氏は。拙者もその位強キャラになりたいですぞ」
「あら、でも。皆だって特に危うい感じはないでしょう?」
各々席に着く、ほぼ揃った面々はゆるく頷いた。長期休みの宿題に追われる人はいても、何だかんだテスト勉強に追い込まれた事は無い私達。嵐を越えた今穏やかに凪いでいる。早く帰っても良いテスト本番を待ってすらいる。オタ活に割く時間が増えるのだから。
「いや。危うい奴がいるわよ、一名」
顔には薄ら笑い。親指を立て、市川さんは隣を指す。そこには思いっ切り目を逸らすお姉さん。
「やっぱりわたしが早く生まれるべきだったのよねぇ。そうしたら勉強教えてあげられたのに!」
「うるせ」
「まあまあ。なら拙者達が力になるでござるよ、ね」
真昼からのアイコンタクト。何だか畏れ多い気もするけれど、私は頷いた。佐野さんとの約束みたいに二人きり、はどきどきするけれど。文芸部としての複数人で動く機会は増えたほうが良い。私達と新入部員の二人の距離を縮める為。
「はい、教科次第ですけれど……私も少しは力に」
「ワタシも良いわよ、去年やったばかりの内容だし」
「優しい仲間が出来て良かったわねオネエサマ。今日は親戚が用事で来るからおそらくNG、明日以降なら予定も入れてないはずだわ。その辺で教えに来てやって」
「勝手に決めんな愚妹」
市川さんを脇腹で小突いてから、お姉さんはそっと立ち上がりこちらへと近付いてくる。
「お願いします」
それはもう、綺麗な角度だった。
ここは貴方達の様なイケ女が来る場所ではありません!(だってオタクの寄せ集めだもの、この文芸部) 十一月二十九日 @11_29tsumeru
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