村田正21歳、自分探しの旅で本当の自分に出会う。
阿炎快空
村田正21歳、自分探しの旅で本当の自分に出会う。
自分探し。
それは広い世界を見て回り、本当の自分を見つける為の旅。
多感な若者であれば、一度くらいは想いを馳せるものだろう。
この僕、
そんな訳で21歳になった今年、僕は大学の夏休みを利用し、バイトで貯めたお金で海外旅行を計画した。
目的地は王道のインドである。
結果かい?
見つけたよ、本当の自分を。
それも、行きの空港で。
え、流石に早くない?なんて思っていたら、
「あっれー!もしかして!?」
と、向こうから声をかけてきた。
本当の僕は、地味な偽りの僕とは異なり、髪を金髪に染め、高そうな革ジャンを着ていた。
瞼も偽りの僕と違ってくっきりとした二重で、それを指摘すると
「わかる?数ヶ月前にいじったんだよね」
と笑った。
「けど、目的達成しちゃったし、どうしよっかなインド旅行」
「もうチケット取っちゃったんでしょ?普通に観光してきたら?」
本当の僕のアドバイスに従い、偽りの僕は一週間の一人旅を楽しんだ。
とても素晴らしい時間だったが、その辺の詳細は割愛しよう。
帰国した偽りの僕は、連絡先を交換していた本当の僕と合流し、実家へと向かった。
家族への紹介や、家の案内、我が家のマイルールを教えたりと、本当の僕への引継ぎを済ませる。
「苦情くるから、夜はあんまり大きな音立てないでね」
「オッケー、了解」
長年、偽りの僕のものだったベッドに横になりながら、本当の僕がピースサインを返す。
母は偽りの僕に対して、
「まあ、あんたもたまには顔見せなさいよ」
と言って、軽く肩を叩いた。
家族——もとい、元・家族と本当の僕が手を振る中、偽りの僕はバスに揺られて実家を後にした。
辿りついたのは、隣の県にある大きな建物。
そこは、偽りの僕の様な偽物達が共同生活を送りなつつ、新たなスタートを切る為に頑張る職業訓練施設だった。
偽物となっても人生は続く。
これからどうしようかと途方にくれていた偽りの僕に、だいたい同い年くらいの女性職員が話しかけてきた。
「不安なのはわかります。私もそうでしたから」
よく見れば、彼女の名札には《元・佐藤》と書かれている。
「でも、貴方はもう〝自分らしさ〟なんてものに縛られなくていい。もっと自由に、〝なりたい自分〟になっていいんです」
なりたい自分、か。
いい響きだ。
その言葉か、彼女の優しい笑顔か、あるいはその両方か——はっきりとした原因はわからない。
しかし、今この瞬間の胸の高鳴りは、決して偽りなんかじゃない。
僕にはそう思えた。
村田正21歳、自分探しの旅で本当の自分に出会う。 阿炎快空 @aja915
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