第二章 ー朝の時間ー
太陽が昇り町全体をオレンジ色の光で染めていく、一つ一つの光の粒が、カーテンの隙間をくぐって家の中に入り込み、家主達に朝が来たことを知らせる。そして光と共にジリリリやピコン・ピコン、ププププっと、それぞれの音が鳴りだす。さあ、一日の始まりだ。
「おはよう」
まだ眠たい目を擦りながら一階の居間に降りてくる僕。父と母はすでに畑に行き農作業だ。農業の朝は早い。こう言うと、農家の息子なのに朝が苦手で遅刻ギリギリって思うかもしれないが、僕の起床時間は6時。両親に比べれば早くないが、けして遅い起床時間でもないだろう。
まずは自分の身支度のために、顔を洗ったりと朝の支度を済ます。そのあと母ちゃんが用意しておいてくれた朝食の前に、お弁当を作る。妹の分も・・・。漫画でよくあるパターンだと、妹が「お兄ちゃーーん。朝だよ遅刻しちゃうよ」って、バタバタと起こして、笑顔で「おはよう♪」って朝を向える。兄がバタバタ準備して家を出るタイミングで「お兄ちゃん忘れ物!お弁当箱!今日も空っぽにして持って帰ってきてね♪」ってお見送りしてくれるもんじゃ・・・。僕の妹には無理だ。完全に立場が逆だ。そんな妄想をしながらも、お弁当は出来上がった。
ご飯は母ちゃんが炊いといてくれたから詰めて梅干を入れる、我が家の梅はすっぱめのカリカリ梅。おかずは卵焼きにほうれん草を混ぜて、味付けを麺つゆで和風に仕上げた。あとはベーコンのアスパラ巻に、蓮が余っていたから人参を入れてきんぴらごぼう・・・ごぼう無しで。あとは色どりでキャベツとミニトマトを入れて完成。あと10分ほどで7時になる。
いったん自室に戻り制服に着替えてから香を起こそう。
階段を上がり、自室の扉を開ける。すると部屋の壁にたくさんの小さな星粒が映し出されていた。
朝の星空。
夜ではなく朝にこんな光景が見られることと、いつも通りに戻った部屋だったはずなのに、違う部屋に来た感覚で見とれてしまった。部屋を見渡していると机の上に出されているビー玉を見つける。
「あれ、だしっぱだったっけ?」
ビー玉は日に照らされて、日の光が反射して部屋の中に星粒を出していた。こんな小さな玉で凄いなと感心していた。チチチチっとアラーム音が響く。机で充電していた携帯から7時を知らせるアラームだった。
「あ、時間。着替えなきゃ。」
朝の星空に見とれて時間を忘れていた。僕は高校の制服に着替えて、隣の部屋で眠る香を起こしに行く。「7時過ぎてる!」っと叫びながら、バタバタと準備をしだす妹。
「7時前には起こしてよ~」
「知らないよ。文句言うなら自分で起きて」
「自分で起きれたら文句なんてでないでしょ」
朝ごはんを食べながら文句を言われる僕。意味がわからない。ちゃんと噛んで食べているのかと心配になるほど、急いで朝ごはんを食べていく。
「ごちそうさま!」
いくら急いでいても、香は使った食器をキッチンに持っていく。洗わないけど。
「いってきまーす」
「香!お弁当忘れてる」
「お兄ありがとう!いってきます!」
「いってきます!」の笑顔はいいんだが・・・漫画のような妹には程遠い妹だ。
香がどうにか時間通りに出発したので、僕は食器を洗ってから自宅を出る。自分で作ったお弁当を鞄に入れて。
「いってきます」
返事はないが帰りは誰かいる。しっかり家の戸締りをして、自転車にまたがり学校へ向かう。
自宅から学校までは、自転車で15分ほど遠すぎず近すぎず、いい距離だ。香は電車で2つ先の女子高。とはいえ駅の間隔が短いためあの時間でもギリギリ間に合うのだ。
僕が通う「東村高校」(ひがしむらこうこう)通称「ひがこう」と呼んでいる。住宅街を抜けると商業施設や会社が立ち並ぶ場所がある、歩道もしっかり整備されており走りやすい。街路樹も桜があったり紅葉があったりと四季を楽しめるのもいい。今は街路樹は青々としており、夏の雲一つない空と相性バッチリ。優しい風がスッーっと通るのも気持ちがいい。
一人夏を感じていたら学校に着いた。正門を通る前に駐輪場へ向かう。安全のためや駐輪場にも限りがあるため、自転車通学は申請制。専用のステッカーが自転車に貼られていないと停められないようになっている。空いている場所に自転車を入れ込み鍵を閉めて正門へ向かう。
駐輪場と正門の距離は20mほど。電車や徒歩で登校する生徒に混ざる。今、僕の前には腰パンしてシャツを出して蟹股で歩いている小さい奴がいる。髪は染めてはないので黒いが、ツンツンと空に向かって立てているのは、クラスメイトの増田幸太郎だ。あいつ、また生活指導に捕まるぞ。そんなこと思っていると正門には生活指導の吉野綾香先生。
「増田くんおはようございます。」
「・・・おはようございます。」
挨拶は返すんだ。
「増田くん、2週間前の制服チェックでも着方の注意しましたよね?」
「・・・。」
「覚えていますか?」
「・・・。」
吉野先生は増田の目を見て話そうとするが、増田は合わせようとしない。
「着崩してカッコよく見せたい気持ちはわかりますよ。でもね、実際はカッコよくなんてないんですよ。わかっていますよね?」
「・・・。」
「一回始めちゃったから、元に戻したくても戻しずらくなったとかですか?でしたら、そんなの気にしないでも大丈夫ですよ。むしろ元に戻ったことでイメチェンになり注目を浴びてモテるかもしれませんし。」
「・・・。」
「・・・増田くん。私も何度も同じ注意をするのは心苦しいのですよ。制服を整えて教室へ向かえますか?」
増田は昇降口に向かって走っていった。
「増田―――!!放課後指導室!!」
優しく論していた吉野先生が、急に走りだした増田に向かって叫んだ。黒というか、鬼の角が見えるような声で僕含めて周辺にいた生徒は驚いた。
その場は一時静寂に包まれた。
「あれ?みんなどうしたの?おはようございます!・・・あら?ちょっとスカート短いんじゃない?」っと知っている吉野先生に戻った。僕も教室に向かうため歩き出した
夏の青々しさ。夏の匂い。夏の風。夏の体温。夏の空。四季があるからこそ、この時期にしか味わえない感覚がある。
それは、時間も同じだ。
星降る夜に・・・ 秋乃コガラシ @miamia0420
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