⑥
…………
生徒にその普通じゃない腕時計を預けている間、俺の心はずっと気が気じゃなかった。
もちろん、針を回すと時間が自由に移動するとはその生徒には伝えていないが、時計の針盤にはカバーが取り付けられていないため本当に自由に触れるように出来ている。
…しかし。
俺がいつまでもその生徒だけを気にかけていたら、そのうちに他の生徒に声をかけられた。
「ねー先生見て!私、先生の顔描いたよ!どう?」
「私もー!」
「え?あ、ああ、ありがとう。上手く描けてるな」
表面上ではなんとかそう言って取り繕いつつ、意識は完全に自分の腕時計の方に向いている。
ところがそのうちに別の生徒達がやって来て、俺の視界から無残にも腕時計の姿が見えなくなってしまった。
…ああーっ!!ど、退けよお前らっ!!
「せんせー!先生も何か描いてよ!」
「じゃあ先生はオレの顔描いてね!」
「ご、ごめんみんな。ちょっとそこ…」
退いてくれるかな?しかし、俺を囲む生徒達に、俺が優しくそう声をかけた時だった。
次の瞬間、何故か周りの景色が突然全てフッと消え去った。
「っ……!?」
え…アレ?
俺は、今まで何を……?
あまりにもいきなりで、訳の分からない出来事に独り酷く動揺していると、そのうちに俺は背後から誰かに声をかけられた。
「安達!」
「…え?」
その声に振り向くと、そこにはどこかの立派な校門があって。
その付近には2人、懐かしい友人が並んでいる。
…あれ?この光景、どこかで…。
俺がそう思っていると、友人が言った。
「試験、頑張れよ。目一杯頑張って、立派な教師になれ!」
「!!?」
そう言われた瞬間、俺は不思議に思いながらもその言葉に頷いた。
「…お、おう。サンキューな」
……何だかどこか違う場所からいきなりやって来た気がするけど、気のせいか…?
俺は先ほどの図工の時間で生徒がかなりの量の時間を巻き戻してしまったことにも気づかず、今までの記憶も全て忘れて、教員免許をとるための試験会場へと足を運ばせたのだった────…。
………その一方で。
「やっぱりなかなか上手くいかないねぇ」
ホウキに乗って様子を見に来た雑貨店の店員は独りそう呟くと、ため息混じりに指をパチン、と鳴らした。
その直後に場面は「図工の時間」に戻り、ついでに腕時計の件さえ無かったことにした。
そんな彼女の姿は、普段の70代の姿ではなく、まだ20代と若い美魔女の姿だった───…。
☆【指輪編】に続く───…!!(全8話、近日公開予定)
魔女が営む雑貨屋さん【時計編】 みららぐ @misamisa21
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