第4章 なんでまたお前なんだよ




午後7時30分。


私の一日、いや、地獄のような客引き業務がようやく終わった。


クソ暑い。お腹は空っぽ。頭の中は昼間の意味不明な会話でぐっちゃぐちゃ。

もうね、仕事どころじゃなかったんだってば。


あのババアに問い詰める勇気なんて、どこにもなかったし……。



──で、本日の稼ぎ、五百円ぽっち。

笑えよ。笑ってくれ。


「……なんか冷たいもの食べたい」

そう思いながら、ふらふらと中華街の通りへ。


夜になっても、熱気はまったく引く気配がない。むしろ暑い。

このまま溶けて路地のシミになってもいい気がしてきた、そのとき。

「待ってたよ、お嬢さん」

──来た。アイツだ。

チャイナ服にサングラスという謎すぎる出で立ちの男。昼間の“アレ”以来、2回目の遭遇。


「……は?」


おいおい、マジでなんでいるんだよ。


待ち伏せか? ストーカーか?? それとも第三勢力か???



「お嬢さん、晩飯まだでしょ? 一緒にどう?」

軽いノリで言ってくる男。

でも、私は一瞬だけ迷って──小さくうなずいた。

「……良いですよ」



この男には、聞きたいことがある。


ババアの代わりに、何か知ってそうな気がして。


「何が食べたいとか、決まってたりする?」

「とりあえず……冷たいお水が出てくるところなら、どこでも」

「ははっ、じゃあオススメの店があるよ」

そう言って、男──シェンは、先を歩き出す。


その背中が、なんだか不思議と頼もしく見えたのは、気のせいだろうか。


「私は唯よ。あなたは?」

「僕のことは……シェン。シェンと呼んでよ」


店の灯りに照らされたシェンの横顔から、私はなぜか目を離せなかった。



──この感情、なんだろう。



誰かと中華街を一緒に歩くなんて、いつぶりだろう。

記憶をたどっても、思い出せないくらい前。

それなのに今、胸が高鳴ってる。


いつもと同じ街なのに、まるで違って見えた。



そんなことを考えながら、私は夜空を見上げ─




──その瞬間、視界が。


  真っ暗になった。

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占いババアに育てられましたが、そろそろ下剋上してもいいですか? ふぁゆ  @Fayu

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