人類幸福量
ド最狂デューン
人類幸福量
議会は混沌を極めていた。
サイトウ議員が声を荒げて喧騒を一時的に収めた。
「貴様ら! 人類幸福量の概要を忘れたか! このような事態を引き起こしてばかりでは幸福量は下がるばかりだぞ! 方々に対する無礼を弁えたまえ!」
極左議員であるカジワラ議員がそれに応答する。
「貴殿は幸福量にしか目が向かないようだな。 幸福への道には必然性を以てして頭を悩ませる時間が必要なのだよ。 そして現況の打開に必要なのはその時間なのだよ。 人類に残された時間はそう多くもあるまい。 何事も挑戦の結果に宝物があるのだ」
新参議員であるイケジリは皮肉めいた声色で呟く。
「こんな罵り合いをするのが必要なのかよ…」
しばしの沈黙が議会を覆った。
サイトウ議員が、ふと掲げられている人類幸福量概略に目を向けた。
人類幸福量は先進性のある数値化された全く新しい指数である。
人類議会は幸福量を向上させるために努めなければならない。
また、人類議会は幸福量を下降させないように努めなければならない。
サイトウ議員はふと声を大にした。
「明言させていただく! 幸福量の上昇傾向は未だ不明瞭であり、上昇量も不安定である!
そして下降の最大要因は大きく三つに分けられる! 伝染病の蔓延、天災、戦争。 以上の三つである! そして戦争は確実に人為的に引き起されたものである為に予防も可能であるというのが一般論である! これに異議を唱える者は⁉」
沈黙。
「異議はあるまいな⁉」
沈黙。
「では話を進める。 現人類は大国同士の戦争に怯えているのが現状である! しかし、一度始まったものを止めるのは容易ではない! そこで幸福量の上昇を可能にできるような新生条項を立案したい!」
議会は再び騒めきに包まれた。
「条項の概要を今説明する!」
以下はサイトウ議員が議会に提出した内容の全てである。
注釈。 これらの内容は現世界政府の中で重要かつ極めて絶大な威力を誇る条約であり、現在立法されている法案の数々はこの条項なしでは意味を成さないと言えるほどのものであった。
人類幸福量の測定方法の改定。
各自治体で市区町村をブロック単位に割り当てそれらのブロック毎の幸福量を測定。
幸福量が低いブロックでは住民にヒアリングを行い、要因の改善に努める。
今後人類幸福量の一般提示を禁ずる。
例外的に提示する場合は条件を課す。
人類幸福量が特定指数に達した場合のみ提示すると人民に提示する。
特定指数の基準は浮動数とし、昨日の最低量の三分の一であれば幸福量が人民に提示可能である。
人民に提示する幸福量は昨日最高到達量から1.15倍の間で議会の決議と承認で決定した数値を提示する。
以下は議会員のみ閲覧可能である。
人類幸福量の測定方法は既存の形式を流用する。
ヒアリングの基準は犯罪件数の多いブロックから乱数で決定する。
街頭テレビから大音量で発表がされた。
「世界政府から大事なお知らせです! 人類幸福量は、より進化をし国民皆さまに寄り添えるよう優しいシステムになりました! 詳しくはホームページで!」
ホームページには独特なキャッチコピーが掲載されていた。
「隣の貴方が幸せならば私も幸せだろう――」
そして三年後の人類は、誰のことも気にすることがなくなった。
人類幸福量の数値は常に一定である。
人類幸福量 ド最狂デューン @DUNE1010
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