5日目
充電コードを抜き、パソコンを立ち上げる。
前回の分はちゃんと残っていた。
技術の進歩に感謝しながら、一気に続きを書き上げる。
人生とは、苦難の連続だ。
それでも、主人公は強く生きている。
壁を乗り越えていく。
最後には報われる。
今までの努力が実を結ぶ。
――味気がない。
原稿を読み返して考える。
ここに、あと一捻り加えたい。
ただ報われるだけでは、何かが物足りない。
誰もが認める感動のラストには、未だ華が足りない。
一体、何が足りないのか。
考えに、考える。
執筆の手を止め、ただ考えることに集中した。
――結果と引き換えの犠牲。
考え抜いた末に、導き出した結論。
思い立った頃には、考え始めてからかなりの時間が経っていた。
それはストンと胸に落ちてきて、初めからそこにいたかのような錯覚を覚える。
自分自身を納得させるのには十分だった。
人は物を得るから美しいのではない。
何かを失うからこそ、美しいのだと。
どんな人徳にも、感動に勝るものはない。
思いついてから行動に移すまでは早かった。
不思議と、不安はなく何もかもが円滑に進んでいった。
書き終えた大量の文字の列を閉じ、新しいファイルを開く。
そこに、日付と名前を記入する。
電子サインを添付し、保存を押してからパソコンを閉じる。
意味はないと分かっていても、それで良かった。
結局は今までやってきた全てのことは、ただの自己満足に過ぎない。
そうして、見慣れた机を後にする。
薄暗い部屋には破られることのない静寂が訪れた。
[-5:] 風谷香楽 @Manta_16
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