人工甘味料と砂糖菓子

夕暮夕日

人工甘味料とクリスピークリームドーナツ

僕とさユリは夜になると家を向けだして、ちょっとした冒険の旅に出ることにした。

 

 さユりのゆっくりとした歩調に合わせて結われた黒髪が左右に揺れている。

耳を澄ますと聞こえてくるのは緑が奏でる静かな合唱曲と彼女のハミングだけだ。

 

 「ほら」振り返ったさユりが指さす先には階段らしき段差があった。

どう見ても、森林を無理やり切り開いたけもの道といったご様子。それがどこまでも暗闇の向こうまで続いている。僕達はスマートフォンのライトをつけて足元を照らした。


 「ほんとうに帰らなくて大丈夫かな?お母さんたちに怒られるんじゃない?」

 

「今更何言ってんの。そもそも、そっちが田舎の退屈さに耐えられなかったからどこかに連れ出してくれって言ったんじゃん」ユりは口角を軽く持ち上げて答えた。


 たしかにそうだけどさ。。

 

 お互い軽口をたたきながら階段を上がっていく。

 

 土で無理固められた階段を上り終えると、開けた平地が見えた。

広場と呼ぶにはさユりのあれぐらいささやかな大きさだ。口が裂けても彼女の前では言えないけれど。


 そこにはご老体のベンチがぽつりとある。

僕達はそこに座り、スマートフォンのライトを消した。


 夜の森は今日も、森そのものの息遣いの音が満ちていた。


 風のささやきに交じってすすりなく、音が聞こえてきた。


 僕は視線を向ける。


 さユりが大粒の涙をぽろぽろと流している。

さユりは笑って「もうすぐさよならだね」


 僕たちの周りにはさユりの悲しい影が残った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人工甘味料と砂糖菓子 夕暮夕日 @yuu1977

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る