ネギonラーメンキャンセル界隈

D野佐浦錠

ネギonラーメンキャンセル界隈

「チャーシューメン、ネギ抜きでお願いします」

「あっ、じゃあその分のネギ、私の方に貰っても良いですか?」

 えっ!

 カウンターの隣の席から突然聞こえた声に、私は虚を衝かれた。


 声の主は、手入れの行き届いた長い髪の、若くて綺麗な女性だった。全然知り合いではない。


 それって良いのか? 何となく不公平なのでは……いや、でも別に誰も損はしてないし……。

 女性が期待を込めた眼差しで私の方を見ている。うう。そのプレッシャーに負けて、私は「それでお願いします」とOKを出してしまう。


 隣の女性と同時にラーメンが到着する。

 女性が麺を啜り、「ん~~っ!」と感動の声を漏らす。私が譲ったネギも存分に絡めて楽しんでいるようだった。すごく無邪気な笑顔。しかし美味しそうに食べるなあ、この人。


 女性は私より先にラーメンを食べ終わると、颯爽と席を立ち、「ごちそうさまでした!」と大きな声で言った。そして、

「うふふ、ネギ、ありがとうございました」

 と囁くように私に告げて店を出ていった。

 

 良いことをした……のか?

 不思議な気分だった。



≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈



「チャーシューメン、ネギ抜きでお願いします」

「あっ、じゃあその分のネギ、私の方に貰っても良いですか?」

 えっ!

 カウンターの隣の席から突然聞こえた声に、私は虚を衝かれた。


 声の主は、髪が薄くて汗だくのサラリーマン風の中年男性だった。全然知り合いではない。


 それって良いのか? 何となく不公平なのでは……いや、でも別に誰も損はしてないし……。

 男性が期待を込めた眼差しで私の方を見ている。うう。そのプレッシャーに負けて、私は「それでお願いします」とOKを出してしまう。


 隣の男性と同時にラーメンが到着する。

 男性が麺を啜り、「ん~~っ!」と感動の声を漏らす。私が譲ったネギも存分に絡めて楽しんでいるようだった。すごく無邪気な笑顔。しかし美味しそうに食べるなあ、この人。


 男性は私より先にラーメンを食べ終わると、颯爽と席を立ち、「ごちそうさまでした!」と大きな声で言った。そして、

「でゅふふ、ネギ、ありがとうございました」

 と囁くように私に告げて店を出ていった。

 

 気持ち悪い……。

 最悪な気分だった。(了)

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