第18話 地下から這い出て

 グラリスは何を見つけたんだ? 天井近くにある看板のようなものを見上げているな。


「どうかしたか?」

「ここ知ってる道だ! やったね、ここまで来れば後はわかるよ!」

「ああ、そうそう。私もこの辺りなら見覚えあるよ」


 どうやら二人とも知っている道まで辿り着いたらしい。水の上を渡った苦労は無駄じゃなかったんだな……、今はそれだけでけっこう救われた気持ちだ。


「なあ、お前らあたいと一緒に来ないか?」


 するとグラリスから唐突にお誘いがあった。


「あたい、『ジャンクエッジ』っていうチームやってるんだ。お前ら面白いからきっとリーダーも気に入ると思うよ。どうだい?」

「チーム?」


 どういう事か聞き返そうとしたが、オレの言葉を遮るようにゴルナが先に返事をした。


「お誘いありがとう、でも悪いけど行く所があるの」

「そっか~、残念だなあ。ま、気が変わったら歓迎するぜ。それじゃ、あたいはこっちだから。じゃあな~!」


 それだけ言うとグラリスは通路の先へと消えていった。

 なんだかおかしなヤツだったな、このところおかしなヤツにしか会ってないけどな。


「グラリスか。すごい術を使ってたし、またいつか会いたいもんだ」

「そう? やめておいたほうがいいと思うけど」


 ん? おかしな事を言うな。そう思ってゴルナを見ると、心なしかちょっと震えているように見えた。


「おいおい、どうした? 今さら怖くなってきたのか?」

「……彼女、『ジャンクエッジ』って言ってたでしょ? なんというか、ヤバい無法者集団なんだよね。ははっ、私たちずっと薄氷の上を歩いてたわけだ、……最高ね!」


 震えは震えでも歓喜の震えかよ。筋金入りだなこいつ。

 にしても無法者集団ね、どこにでもいるんだなそんなの。ただ、あの強さの説明はつくかな。


「それより早く出ようぜ、いい加減寒くなってきた」

「そんな格好してるからでしょ」

「お前にだけは言われたくない!」


 ともかく、これで地下通路ともおさらばだ。ゴルナの案内で最後の区画を抜け、ようやく地上へと繋がる階段を上っていく。ああ、長かったな。お日様が恋しい、二度と地下には潜りたくない。


「ねえアカリ、あなたお酒は好き?」

「なんで今そんな事を聞くんだ」

「だってここを上がれば目的地の天空教会なんだもの。一緒に脱獄した仲だし、勝利の美酒でも分け合おうかなって。いいものが隠してあるのよ~」


 教会に隠してあるのかよ、どんだけ常連なんだ。ま、いいけどね。

 土と砂に覆われたフタをこじ開け、オレたちはようやく地上へと顔を出した。

 そこにはゴルナが目的地だと言う天空教会らしき施設がドンと建っている。……のはいいんだけど、すっかり周囲を囲まれているのは気のせいだろうか?


「はあ~い、ようやくのご到着ね」


 オレたちが顔を出した出口を囲うヘルメットの連中。そしてよりにもよって目の前にはクインさまがいる。

 おいおい、思いっきり待ち伏せされてるじゃないか。


「クイン……さま、か。なんでここに?」

「だって、ゴルナが一緒でしょ? あの子が逃げてくるっていったココだもの」


 あー、そこまで常連なのか。周囲にバレバレなくらいには。ゴルナを睨むがそっぽを向いてごまかそうとしていやがる。こりゃ詰んだかな。


「アカリ!」


 そう思っていると、クインさまの後ろから聞き覚えのある、そして懐かしさすら感じる声が聞こえた。

 オレに向かって駆け寄ってくる青い髪。アオミもここに来ていたのか。


「アオ――」


 ぐえっ。

 声をかける寸前に思いきり抱き付かれた。いたた、ちょっと強いって。


「アオミ、痛い」

「……黙ってどこかに行かないで」

「え? ……あ、ああ」


 抱き付かれているから表情は見えない。けれどアオミの絞り出すような言葉は静かで、か細く、そして強い気持ちが込められていた。

 まいったな、もしかしてめっちゃ怒ってるのか。そもそもこうなったのはゴルナのせいなんだけど……、ああもう、わかったよ。


「悪かった、もうしない」

「……約束だよ」


 ようやく少しずつアオミの力が緩み、名残惜しそうにオレの体から離れた。


「さーて、それじゃあクインさまのお裁きを言い渡すよー!」


 雰囲気ぶち壊しもなんのその、ここですかさずクインさまが叫んだ。

 だよなあ……結局これがあるんだ。何のためにあの苦労をしたんだか。


「まずはゴルナ、脱獄の罪で天空教会での奉仕活動を命ずる! シルバナ、お願いね~」

「はい、クインさま」


 クインさまに呼ばれ、修道女の格好をした銀髪のゴブリンがゴルナの前に出た。シルバナって言うのか、真面目で優しそうな感じだけど……こいつがゴルナの言っていた妹かな?


「し、シルバナ、お手柔らかに……」

「ゴルナ……これで何回目ですか」

「だからそれはもう私の生き方だから」

「ジャッジメントハンマー!」


 シルバナの手にでっかい銀色のハンマーが現れ、ゴルナの脳天に振り下ろされた。

 ははっ、姉妹でマギ装術って似るんだな。こっちはゴルナのと違ってしっかり痛いようで、痛恨の一撃を食らったゴルナはその場にのびてしまっている。


「それではみなさん、失礼いたします」


 気絶したゴルナを引きずり、シルバナは教会の中へと消えていった。

 優しそうな顔に反してけっこう怖い。ゴルナと全然似てないね。


「さーて、アカリちゃん」


 おっと、ゴルナの事を言っている場合じゃなかったな。次はいよいよオレの番か。


「用も無いのにこんな所まで出歩いちゃダメよん? アオミが心配してたんだから、早くおウチに帰んなさい」

「……あ?」


 意外な発言だった、何だよそれ。


「不敬罪はどうしたんだよ」

「ふけいざい~? クインちゃまわかんな~い」


 ……ムカつく。ここにちゃんとした武器があればリベンジしてやるのに。


「さあみんな、グールが出ないうちにお家に帰んなさい!」


 そう言う自分が一番早く帰ろうとしている。

 ついでに兵士らしき連中もクインさまと共にあっという間に帰ってしまった。不敬罪だのなんだの、人を牢屋にまでぶち込んでおいてこれかよ。


「アカリ、わたしたちも帰ろう」


 ……まったくもってムカつくが、アオミに迷惑かけるわけにもいかないからな。ここは大人の対応で我慢しておいてやる。

 にしても色々と思い知らされた一日だった。武器もそうだが……マギ装術か、オレも本格的に学ぶべきかもしれない。


「ところでアカリ、その格好はどうしたの?」

「……聞くな」


 腰蓑姿で歩く帰り道は風が涼しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ガラクタ世界のゴブリンたち ~記憶喪失少女と仲間たちの冒険譚~ マスドジョー @Dainama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画