子猫を抱いて、勇気も抱いて
あまぐりたれ
第1話
放課後の帰り道。
私はランドセルを背負ったまま、うつむいて歩いていた。
「……言いすぎちゃった」
友達と些細なことで口げんかをした。仲直りしたいけれど、素直になれない。胸の中が重く、足どりも重い。
そのとき。
「にゃあ……」
小さな鳴き声が植え込みの陰から聞こえた。
のぞくと、やせた体の子猫が震えていた。毛並みは泥で汚れて元の色が分からない。力なく鳴いている。
「……ひとりぼっち?おなかも、すいてるのかな」
思わず声をかけ、手を伸ばした。けれど子猫は身をひるがえし、弱々しい足取りで走り出す。
「ま、待って!」
ランドセルを揺らしながら追いかけた。
商店街を走る子猫と私を見て、魚屋のおじさんが声をかける。
「危ないぞ。捕まえるのか?」
「はい!でも、すばしっこくて……」
おじさんが段ボールを広げて進路をふさぐ。しかし子猫はするりと抜け、路地に逃げこんだ。
犬を散歩中のおばさんが気づく。
「こっちに走ったわよ!」
「ありがとうございます!」
必死に追いかけて公園に着くと、部活帰りの中学生たちが手を止めた。
「子猫つかまえるのか?おれらで囲むか?」
「うん、お願い!」
輪を作って少しずつ追い込んでいく。木の根元で立ち止まった子猫は、疲れ切ったようにうずくまっていた。
私は息を整え、そっとしゃがむ。
「大丈夫だよ……こわくないよ」
両手を差し出すと、子猫は小さな体を預けてきた。
「……つかまえた」
胸の中で、小さな鼓動がトクトクと鳴っている。
「よかったな」
中学生が笑いかける。
「ありがとう……みんなのおかげです」
腕の中の子猫が「にゃあ」と鳴いた。
「迷い猫だろ。君の家で飼うのか?」
「まだ分からないけど、お母さん達にお願いしてみます」
家へ歩きながら、茜は思った。
――この子もひとりぼっちで、さみしくて、きっと助けを待っていたんだ。
――私も、今日あの子とけんかして、ひとりぼっちに感じてた。
本当は、早く友達と仲直りしたい。
私から「ごめんね」って言おう。
玄関の前で立ち止まる。心臓がドキドキする。
勇気を振りしぼり、ドアを開ける。
「……お母さん。ちょっと来て欲しい」
玄関でお母さんを呼ぶ。
子猫が胸の中で小さく鳴いた。
その声は、「だいじょうぶ」と背中を押してくれるみたいだった。
この小さな命を守れるよう、全力でお願いしよう。
そして明日学校に着いたら、一番に。友達に謝ろう。
ほんのり温かい未来が、少しだけ近づいてきた気がした。
子猫を抱いて、勇気も抱いて あまぐりたれ @tare0404
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