翼の折れた天使
中里朔
1分で読める創作小説
私がまだ小学生の時、とてもダンスが上手な友達がいた。その子は「いつか大きな舞台で踊りたい」と楽しそうに夢を語っていた。
私は運動が苦手なので、いつも彼女が楽しそうに踊っている姿を、遠くから眺めているだけだった。彼女はとてもキラキラと輝いていて、私なんかが近付いてはいけないような存在に思えた。
私にも好きなことはある。マンガを書くことだ。でも、ちっとも上達しない。オタク趣味だし、彼女のように自慢できるような代物ではなかった。
ある日、彼女は事故に遭い、不運なことに片足を失ってしまった。義足をつけて、ぎこちなく歩く彼女にかける言葉がみつからない。
私はまだ下手糞なマンガを描き続けていた。けれど、誰も見てくれないマンガを描くことに意味が見出せなくなって、小学校の卒業と同時にやめてしまった。
数年後。やりたいこともなく、虚無感に陥っていた私は、目的もなく動画サイトに視線を泳がせていた。映像を流し見ていたところ、ある動画に手を止めた。
そこには見覚えのある女の子が映っていた。義足になった彼女だった。
少し大人っぽく成長した彼女は、義足を隠すことなく踊っている姿を何本もアップしていた。彼女のダンス動画はどれも驚くほどバズっている。
まだ続けていたんだ……。
いつだったか、私のマンガを読んでくれた彼女が言ってた。
「下手でもいいじゃん。好きなことを見つけられない人もたくさんいるんだよ」
ああ、そうか。彼女はバレリーナやダンサーにはなれなかったけど、夢だった”踊ること”は諦めずにいたんだ。
好きでいるって、そういうことだよね。
私はもう一度ペンを取った。
翼の折れた天使 中里朔 @nakazato339
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